研究概要 |
金属錯体を構成単位とする分子集合体に期待される物性の一つに分子強磁性がある。本研究では、金属錯体と有機化合物との電荷移動錯体(有機ラジカル金属錯体)からなる分子集合体において強磁性的相互作用を発現させることを目的とする。本研究では、金属錯体としてdσ軌道にスピンを持つ銅およびニッケルサイクラム錯体、pπ軌道にスピンを持つ有機ラジカルとして(TCNQ:テトラシアノーpーキノジメタンとR2ーDCNQI:ジシアノキノンジイミン誘導体)をもちい、二つの軌道の直交性を利用しその分子集合体において陰イオンと陽イオン間に強磁性的相互作用をもつ系の合成を試みた。またこれら金属錯体錯体は配位子を化学修飾することにより、金属の酸化還元電位を容易に制御でき本研究に適している。有機ラジカルとしてTCNQおよびR2ーDCNQIをもちいる。R2ーDCNQIは、置換基Rによりその酸化還元電位を変えることが可能で、金属錯体との化合物において電荷移動量を制御できる可能性がある。 (i)アセトニトリル中における電気化学的測定により、銅サイクラム錯体とdimethylーDCNQIが混合原子価電荷移動錯体合成に適した組み合せであることに見いだした。 (ii)金属錯体とあらかじめ一電子還元したTCNQやR2ーDCNQIラジカルとの錯体([M(cyclam)][TCNQ or T2ーDCNQI]_2(M=Ni,Cu)の単結晶を拡散法によりを作製した。 (iii)合成した化合物のX線構造解析により銅サイクラムーdimethylーDCNQI錯体においては銅に有機ラジカルが配位したネットワ-ク構造を持つ混合原子価錯体であることが判明した。 (iv)銅サイクラムーdimethylーDCNQI錯体の磁化率測定により、銅原子と有機ラジカルdimethylーDCNQIの間には磁気的相互作用は無いが、dimethylーDCNQI間に強い反強磁性的相互作用(J=ー480cm^<ー1>)が在ることが明かとなった。 本研究により、混合原子価状態の有機ラジカル間には強い反強磁性的相互作用があり、この反強磁性的カラニに常磁性金属錯体を規則正しくぶら下げることによりフェロ磁性体おるいはフェリ磁性帯の実現が可能であることを明かにした。
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