研究概要 |
本研究では,分子動力学を基礎とした高分子液体の流動過程の解析の第一段階として,高分子液体のもっとも簡単なモデルとして,ニュートン流体に高アスペスト比の繊維を希薄に懸濁した液体を考え,単純な流れ中での繊維の配列ならびに複雑な急絞り流路内での流れ模様および繊維の配列などの観察を行い,高分子液体の流れと比較しながら繊維懸濁液の複雑な流れを検討した。得られた成果は以下のとおりである。 1.繊維懸濁液の単純せん断スタート・アップ流れの実験から,初め比較的ランダムに配列していた繊維が流れの開始後急激に配列を変えるのが観察された。これが,ニュートン流体の場合には見られないせん断応力のオーバーシュートのような過渡的流動特性の原因となっていると考えられる。ただし,直線状の繊維を懸濁しているので高分子液体の場合に観察されるような大きなオーバーシュートは見られなかった。高分子液体の場合を分子動力学的観点から考えると,急に流れが開始するために静止状態でリラックスしていた分子の形態を急激に変えなければならなくなり,大きなせん断応力が発生すると推察される。なお,この点については今後研究を進めて確かめる必要がある。 2.繊維懸濁液の場合,絞り部上流角部に生ずる渦は繊維に含有率あるいはアスペクト比の増加に伴い著しく成長する。しかし,渦が大きく成長している場合でも,渦の境界は比較的直線的であり高分子液体のように凸状にはならない。さらに,繊維懸濁液の場合,慣性の影響の小さい範囲では渦の長さは一定で,レイノルズ数が増大すると渦は縮小し,高分子液体の場合のような流量の増大に伴い渦が急激に成長する現象は見られない。 徒って,次の段階では流動中に形態を変えやすい曲がり形状の繊維の懸濁液を用いる実験ならびに数値解析では繊維に形態変化の効果を考慮した構成式を用いることが不可欠である。
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