研究概要 |
連想学習の神経的基礎を明らかにする目的で、これまでウミウシを用いて光と回転で条件づけし、その神経系の変化を明らかにしてきた。本補助金による研究課題は、これまで明らかにしてきた知見を基礎として、ウミウシの神経細胞を単離、培養し、その後人為的操作により、神経細胞相互に機能的回路を形成させ、そこでの学習・記憶様式を工学的に応用しようとするものであった。条件づけ学習(連合学習)は視覚系と前庭系の間の感覚受容器相互の神経干渉によるもので、これには種々のタンパク質キナーゼがGTP結合タンパク質のリン酸化を促進し、イオンチャンネル活動を修飾することが明らかになっている。従って学習・記憶の基礎としては、対象とする神経細胞の種類に関わらず、神経細胞の作る回路において、細胞膜タンパクのリン酸化を調節すれば,そこでの情報処理様式が変わるはずである。このような構想のもとで研究を進めた。当初in-vivoでの学習と同様に視細胞と有毛細胞を近接培養することを計画したが,特に有毛細胞は単離後、軸索の伸張は観察されなかった。このような理由から,対象を中枢神経系の細胞に変更し,その近接培養を行い以下の諸点が明らかになった。(1)ウミウシ神経細胞は無脊椎動物の神経培養で広く用いられているL-15(リボヴィツ液)を基本として,神経接着因子ラミニンを添加すると3〜4日で軸索は50μm程度伸張すること,(2)近接培養した細胞相互には,シナプスが形成され機能的連絡ができること。ここで形成されるシナプスの生理的意義は未検討である,(3)細胞軸索の成長方向を制御するため,培養基板に深さ2μmの溝を徴細加工すると,軸索はこの溝に沿って伸張することから有用性を確認した。従って(2)で形成されたシナプスの性質があらかじめ判っていれば,想定される情報処理の形式から特定のパターンで溝を作っておけば有用な神経回路を設計することも可能である。
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