本研究は高等植物における香気性形質の遺伝的発現機構を解明するとともに、無臭性植物への香気性形質の導入を目的として計画された。本年度はサルビア属の収集とともに、収集したサルビア属の種間における香気成分の評価および種間の交雑和合性についての実験を進めた。 サルビア属は、エスビ-食品(株)(東京都豊島区)、サカタのタネ(神奈川県横浜市)、日本花卉(埼玉県川口市)、ハ-ブハ-モニ-ガ-デン(茨城県水海道市)、三笠園芸(株)(東京都世田谷区)などから7種16品種・系統とその近縁種1種が収集できた。それぞれの香気性はヒトの嗅覚による官能検査やガスクロマトグラフ(GC)分析によって評価する。官能検査は香りの強さ、つまり無臭、中および強の4段階の相対的な評価と感じ方の表現であり、それには10人の人達の協力をえた。GC分析は、ヘッドスペ-スの平衡法によって調整したサンプルをデ-タ処理装置付きGC分析機(日立263ー30型)への直接注入による分析評価である。その他には、供試材料の葉の表と裏面における精油細胞の分布状態を光学顕微鏡で調べた。 その結果、ヒトの嗅覚による評価ではムラサキサルビアの無臭からメキシカンサルビアとヤクヨウセイジの強い香りまでの4段階があり、供試した品種・系統間には香りの強さが異なることを示唆した。しかしながら、その香りの感じ方には個人差がなかった。GC分析でも同様の品種・系統間差異があった。ただし、その香気成分のピ-クは低温域(60〜84℃)と高温域(120〜200℃)に多く存在し、中温域(85〜119℃)に少ないと言う特徴があった。強い香りを示す品種・系統は低〜中温域におけるピ-ク数が多く出現させ、また、葉における精油細胞数も多いことを示す。なお、種間の交雑和合性については、現在検討中である。
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