研究概要 |
固定化算殖酵母Saccharomyces cerevisineのα細胞によるαー接合因子(αーMF)の分泌制産系を確立していく中で,酵母を高密度に中性の光架橋性樹脂に包括するとαーMFの分解が急激に足こることを見出し,この分解を触媒する酵素を部分精製したところ,ペプチド鎖内の中央部にあるLeuーLys結合のみを特異的に切断するペプチダ-ゼであることがわかり,“Leulysin"と命名した。Leulysinは分子量55k,63kDaのサブユニットから成り,酵素反応の至適pHは4.0,至適温度は37℃であった。また,Leulysinは一般のプロテア-ゼ阻害剤によって活性の低下が認められなかった。本酵母はαーMFを分泌することからαーMFを予め培地あるいはゲル中に添加してLeulysinの生産を行ったところ,遊離菌体および固定化菌体ともにその生産誘導が観察されなかった。また,ゲル内に固定化された菌体はLeulysin生産過程では生育状態にあることも確認された。以上の結果から本酵素は遊離菌体ではほとんど検出できず,菌体に高密度包括固定化というようなストレスを与えることにより大量に分泌生産することが明らかとなった。次に,接合型の異なる菌株を用いてLeulysin様ペプチダ-ゼの検索を行った。a細胞は遊離培養でも高密度固定化α細胞に比べ数倍のLeulysin様ペプチダ-ゼを培養液中に分泌生産した。さらにα細胞を光架橋性樹脂7gあたり2ー4g湿重量と高密度に固定化したところ,その生産性はさらに10倍程度高まりα細胞と同様に固定化というストレスによる生産性向上効果が認められた。粗酵素液(培養3液)では反応はpH4で至適でありα細胞のLeulysinと同じであった。一方,倍数体はα細胞の数分の1の生産しか示さなかった。このようなストレス因子などによる生物の潜在能力の発現は今後,新種生体高分子の合成・分泌といった新たな物質生産システムの開発に利用されるであろうし,また,ストレスの伝達・応答・消失とそれに関連した形質発現機構などの基礎的研究も興味深い。
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