研究概要 |
乳癌由来の完全浮遊型非凝集性の細胞株YMB-Sに誘導される分化現象を細胞増殖抑制と細胞接着能獲得という2方向から研究した。 細胞接着に関与している分子はα3,α5,αv,β1の各インテグリン分子とE-カドヘリンと考えられた。これらの発現量は、sodium bytyrate(NaB)による処理前に比べて処理後に有意に増加していた。細胞間にはE-カドヘリンとα3β1-インテグリンが局在し、細胞接着に関与しているものと推定した。その他のインテグリンとフィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンなどの細胞外マトリックスはびまん性に細胞表面に存在し、細胞-基質間接着に関与していると推定できた。 NaB,dimethyl sulfoxide,dimethylformamide以外にも5-azacytidine,n-butyric acid,hexamethylene bisacetamideなどが細胞の分化を誘導した。cycloheximide,actinomycin Dも同様の作用を示したが、上記の分化誘導物質による分化はcycloheximide,actinomycin Dによって部分的に抑制され、分化には蛋白合成、mRNA合成が必要と考えられた。 KL-6抗体はヒトMUC-1ムチンを認識することがわかった。in vitroでKL-6抗体存在下ではYMB-S細胞は数時間で細胞接着をおこし増殖を抑制した。細胞周期の解析によりGO/G1期に導入される細胞が多く、NaBによる変化と同様であった。ついで、in vivoにおけるKL-6抗体の抗腫瘍効果を検討した。ヌードマウスに2×10^7個のYMB-S細胞を皮下移植し、移植当日から1mgのKL-6抗体を7週間にわたって計14回投与した。対照のマウスモノクローナル抗体を投与した群と比べてKL-6抗体は腫瘍の増大を有意に抑制し、KL-6抗体がin vivoでも抗腫瘍効果を有することが明らかとなった。
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