研究概要 |
オリゴデンドログリア(O-2Aグリア)はMHCクラスII抗原さ発現せず,アストロサイトやミクログリアのような中枢神経系の免疫応答に積極的に関与しているという証拠はこれまでなかった。しかし本研究は,長期培養O-2A細胞株L3(Aloisiら1990)を用いて,O-2AがT細胞のインターロイキン2依存性増殖反応を促進することをはじめて明らかにした。また,液性因子ではなく接触因子を介するグリア-T細胞相互作用を証明し,O-2Aグリアの膜分画にその活性を証明した。使用されたO-2A細胞株L3は,同系ラットの脳組織に移植すると成熟したオリゴデンドロサイトに分化することを証明し,またin vitroでもO4,HNK-1,A2B5などのO-2Aのマーカーを発現していることを明らかにした。これらの実験結果は,我々のin vitroでの実験系がin vivoでの炎症過程の少なくとも一部を再現していることを示している。現在のところL3細胞株の発現しているT細胞増殖因子の本態は明らかになっていないが,今後生化学的,分子生物学的な方法論を駆使して新しい分子のクローニングが必要である。O-2Aグリアが免疫細胞と相互作用をする反応として,近年熱ショックタンパク(heat shock protein,HSP)を介した系が示唆されている。そこで我々は,一次培養オリゴデンドロサイト,およびL3株のHSP発現を免疫組織化学的に検討した結果、O-2AがHSP72を発現しうることが明らかになった。以上の結果から,O-2Aグリアは脱髄性炎症反応の標的であるのみならず,自らも積極的に免疫応答を調節し,中枢神経系脱髄疾患の病態に関与していることがわかった。
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