1.はじめに: 1987年ロンドンのDr.T.Crowは性別による同胞一致率など臨床遺伝学的所見にもとづいて、機能性精神障害の責任遺伝子座位が、性染色体の偽常染色体領域にあると主張した。この偽常染色体仮説はたちまち注目を集め、現在の生物学的精神医学界のもっともホットな話題となっている。しかしながら本仮説は、もっぱら臨床遺伝学的所見にもとづいて提起されている。われわれは、この領域が含まれる、きわめて稀な性染色体異常症例を用いて細胞遺伝学的・分子遺伝学的に、この仮説を検討した。 2.対象.: 精神分裂病をともなうXX男性2例およびX/Y転座の1例である。 3.方法: これらに対して採血を行い、(1)リンパ球培養の後高精度分染法による、break pointおよび転座部位の同定をおこなった。(2)同様に採血を行い、DNAを抽出し、偽常染色体領域近位部に存在するプロ-ブをもちいて、3症例の偽常染色体の重複領域を検討した。 4.結果: XX男性2例について切断点は、1例はいずれもTDF領域以下での交叉あり、1例はDXYS14とMIC2の中間領域とTDF領域以下の交叉であった。したがって偽常染色体領域仮説を示唆するMIC2領域の重複は1例では見られなかった。またX/Y転座の1例では切断点はXp22とYq11であったが、これは偽常染色体のモノソミ-の所見であり、仮説を支持しないと考えられた。 5.考察: 以上の結果から偽常染色体仮説は否定的である。
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