研究概要 |
1.各種卵巣腫瘍の糖脂質の分析 (A)酸性糖脂質:ガングリオシドについては正常卵巣,漿液性嚢胞腺癌,明細胞腺癌において高濃度に含有されるのに対して,粘液性嚢胞腺癌ではその発現量は少なかった。また,硫酸化糖脂質については,粘液性嚢胞腺癌において,Sulfo-GalCerが高濃度に検出された。総酸性糖脂質中の硫酸化糖脂質中の占める割合は,正常卵巣では0%,良性粘液性卵巣腫瘍では40%であったが,粘液性嚢胞腺癌では約90%であったことから,粘液性嚢胞腺腫では癌化に伴い,硫酸化糖脂質が著明に増量すると言えよう。 (B)中性糖脂質:粘液性嚢胞腺腫と粘液性嚢胞腺癌におけるLe^a,Le^bの発現は,腺癌で増量する傾向が明らかになった。 2.卵巣癌の糖脂質を認識するモノクローナル抗体 ムチン性卵巣癌細胞から糖脂質を単離し,作成したモノクローナル抗体MRG-1を作用させたところ抗原決定基にA型構造が含まれることが分かった。NMRおよび陰イオンFABMSによる解析の結果,MRG-1と反応する糖脂質はタイプIIIA型糖脂質と決定された。 3.癌化に伴う各種糖転移酵素活性の変化 卵巣癌患者の腹水中に正常人血清中のガラクトース転移酵素とは異なる癌関連ガラクトース転移酵素(Galactosyl transferaseAssociated with Tumor,GATと命名)が見出され,これに対するモノクローナル抗体を用いた測定系が開発された。同測定系によると、GATの卵巣癌全体での陽性率は53%とCA125,CA602よりも低値となっているが,良性卵巣腫瘍や子宮内膜症ではそれぞれ6%、7%と,現存する各種糖鎖抗原系マーカーの中でも最も低い偽陽性率を示すことから,癌特異性の高いマーカーとして期待される。
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