研究概要 |
三又神経は口腔・顔面領域の感覚を支配する神経で,この神経に起因する痛みの大部分は三又神経尾側核で中継され,この部位にはオピオイドペプチド合成細胞が多数存在する。すでに,私はこのペプチドの一つであるエンケファリンの遺伝子発現が三又神経により制御されていることを報告してきた。そこで,もう一つのペプチドであるダイノルフィンの遺伝子発現にもこの神経が関与しているか否かを明らかにするためにエンケファリン遺伝子の発現の変化を検討する際に用いたin situハイブリダイゼイション法を用い,同じ刺激条件および同じ解析手法を用いてダイノルフィン遺伝子の発現について検討した。 三又神経刺激により三又神経尾側核におけるダイノルフィン遺伝子の発現は増加した。0.1mAの刺激で,この遺伝子のmRNA陽性細胞および陽性細胞当たりのmRNAは刺激後2時間で明らかに増加し,24時間まで持続した。エンケファリン遺伝子の場合は刺激終了直後と24時間後とに増加のピークをとる2相性を示す。lmAの刺激では,この遺伝子のmRNA陽性細胞数は24時間後に顕著な増加が認められ,陽性細胞当たりのmRNAは1時間後に明らかに増加し,この増加傾向は24時間まで持続した。さらに,この刺激条件下では陽性細胞当たりのmRNAの増加が陽性細胞数の増加より大きく,エンケファリン遺伝子の場合と逆の傾向を示した。経時的変化で比較すると,刺激後6時間まではこの二つの遺伝子の発現様式はほぼ似た傾向を示したが,24時間後ではダイノルフィン遺伝子の発現が勝っていた。これらの結果は,同じ刺激に対してこの二つの遺伝子のmRNAの発現様式は異なり,この二つの遺伝子の発現を制御している機構にちがいのあることを示唆している。
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