研究概要 |
近年,臨床的にアンジオテンシン変換酵素阻害薬の降圧薬としての有効性が高く評価され,第一選択薬と位置づけられるようになった。本薬物の作用機序は,既知のレニン-アンジオテン系やカリクレイン-キニン系のみでは説明できない。申請者はある種の高血圧動物の高血圧維持期にアンジオテンシン変換酵素活性上昇による血管壁レニン-アンジオテンシン系の亢進を見いだした。以後,血管壁レニン-アンジオテンシン系の重要性が注目される様になったが血管壁におけるアンジオテンシンIの産生機序は不明であった。本研究はまず,腎摘ラットの血液および血管組織中のレニン活性(抗レニン抗体で抑制されるアンジオデンシンI生成活性)の経時変化を比較することにより,血管壁独自のレニン活性が測定できることから,血管壁レニンの存在する可能性を生化学的に明らかにした。実際,正常血圧者の胃全摘術時に得られた非病的状態の胃大網動脈においてもレニン活性が存在することが明らかになった。さらに,血管内皮を除去した標本では無処置の標本に比べて有意にレニン活性が低値であったことから,内皮細胞にレニンが存在することが示唆された。そこで,リコンビナントヒトレニンに対する特異的な抗体を用いて,同動脈を免疫組織化学的に検索すると内皮細胞に特異的な陽性染色が得られた。以上のことから,生理的な状態で血管の内皮細胞にレニンが存在することが明らかにった。このレニンが血中から取り込まれたものか,内皮細胞で合成されたものかは結論が得られなかったが,レニン基質が血管壁に存在する事実と考え合わせると,アンジオテンシンIが血管内皮で産生されることが示唆された。従来より,高血圧や動脈硬化の発症,維持,伸展と血管内皮の関連が指摘されてきたが,血管壁レニン-アンジオテンシン系の面から考えても,血管の緊張性調節における血管内皮機能の重要性があらためて認識された。
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