研究概要 |
我々により初めて細胞核に見い出されたイノシト-ルリン脂質特異的ホスホリパ-ゼC(PLC)の構造ならびに機能の解明を目的として実験を進め,以下の結果を得た。 1.細胞核PLCの精製:ラット腹水肝癌細胞(AH7974)より分離精製した核からPLCを可溶化し,4種類のカラムクロマトグラフィ-およびグリセロ-ル密度勾配超遠心を行って高度に精製された4種類のPLCを得た。4種とも既知のPLCr_1,r_2およびδのいづれの抗体とも反応せず,一時的にPLCーA,ーB,ーC,ーDと名づけた。成熟静止肝ならびに再生肝(S期)の核からもPLCを精製し,静止肝からはPLCーAとCが,再生肝からはAH7974細胞と同様PLCーA,ーB,ーCおよびーDが得られた。 2.細胞質上清および細胞膜PLCの精製:AH7974細胞より細胞質上清および細胞膜画分を調製し,それぞれからPLCを精製した。両画分とも主としてPLCーAおよびーCが同定された。 3.4種類のPLCの性質の比較:(1)すべてのPLCがその活性発現のためにCa^<2+>を要求した。また,すべてのPLCがホスファチジルイノシト-ルモノリン酸(PIP)ならびにジリン酸(PIP_2)の加水分解はμMオ-ダ-のCa^<2+>の存在下で効率よく行ったが,ホスファチジルイノシト-ル(PI)の加水分解には,PLCーA,ーB,ーCはmMオ-ダ-のCa^<2+>を要求し,一方,PLCーDのみμMオ-ダ-のCa^<2+>でPIを加水分解した。(2)PLCーAおよびーCはPIを最もよく加水分解し,一方,PLCーBおよびーDはPIPを最も効率よく加水分解した。(3)PLCーAおよびーCに比し,ーBおよびーDは効率よくDNAに結合した。 以上の結果から,PIPを最も効率よく加水分解し,DNAと結合するという特徴をもつPLCーBおよびーDは核に多く存在し,しかも増殖期細胞核に特異的なPLCであることが判明した。これらPLCの抗体の作製およびcDNAのクロ-ニングを目指して現在実験を進めている。
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