研究概要 |
本論文では、日本の学術助成システムの機能を分析するため、科学研究費助成金の受領が、科学の生産性、研究上のさまざまな報賞体系にどのような影響を与えているかを明らかにしようとした。また受領の要因にはどのようなものがあるか、特に、研究成果に見合った科学研究助成金が交付されているかどうかを分析した。 データとして、物理、化学、心理学の3分野における大学等の研究者のランダムサンプルそれぞれ75,75,160名の1988年の公表論文、それに対する引用論文、各研究者が受けた科学研究費補助金、およびその他の個人的社会的特性を調査した。上記のデータの入手に際しては、学術情報センターのデータベースNACSISを利用した。 分析は、化学から行った。なお、心理学では日本語論文が主流であるため、特に引用については、データベースにほとんど収録されておらず、正確なデータが得られなかったためそれを除いて分析を行うこととした。物理学については、同性同名者のチェックに大きな手間を要し、検索された引用論文のスクリーニングを現在実施中である。 論文公表数は、各分野とも逆J型の偏った分布をしており'適合度の検定の結果、負の2項分布にしたがっていた。化学については、引用数の分布も同様に負の二項分布にしたがっていた。また、科学研究費助成金は、論文への引用よりも過去の公表数量により敏感に反応して配分されている。また助成金の受領は論文公表数に大きく関連していた。このことは、助成金の研究に果たす役割の大きさを物語っている。しかし、引用という研究の質に対する評価が科学研究費採択過程で十分に反映されていない傾向もある。
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