研究概要 |
真核細胞のDNA合成が、核マトリックスを反応の場として行われていることが、多くの研究者によって示唆されてきた。我々も、人為的な処理なしに細胞周期を同調させることのできるPhysarum polycephalumの核マトリックスを用いて、核マトリックスでin vivoを反映するDNA合成が行われていること、又、核マトリックスのDNA合成能が細胞周期に伴って変化することを示し、DNA複製複合体が細胞周期に伴って、核マトリックスを母体として構築される可能性を示唆した(以上、1991年度までの成果)。休止期細胞の核マトリックスでは、DNA複製複合体は形成されて居らず、細胞が増殖刺激を受けて後に、複製複合体が作られるらしい(Nat.Sci.Rep.Ochanomizu Univ.(1994)45 印刷中)。DNA合成を盛んに行っている細胞の核マトリックスに微小管結合タンパク質(MAPs)を働かせると、核マトリックスに内在するDNA合成能が著しく高められること、また、MAPsは、精製DNAポリメラーゼαを活性化することも明らかとなった(Biochemistry(1991)30,11403-11412)。MAPsは、核マトリックス上で活発に合成を行っている複製複合体のDNA合成能には影響を与えず、潜在的に存在する複合体の、デオキシヌクレオチドに対する親和性を著しく高めることによって、その合成能を顕著に高めることが明らかとなった(Biochem.Mol.Biol.Int.(1993)31,905-910)。また、実際にMAPs類似タンパク質がS期の核マトリックスに存在することが示唆され、MAPs類似タンパク質のリン酸化によって、核マトリックスの構造変化がもたらされる可能性が示された(論文準備中)。これらの研究結果から、MAPsもしくはMAPs類似タンパク質が核マトリックスにおけるDNA複製を調節している細胞質性のメディエーターである可能性が示された。
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