今日民族的アイデンティティに関する研究は、多民族共生社会の実現に向けた重要な課題である。本研究は同じ民族で異なるホスト社会をもつ在日コリアンと在米コリアンの民族的アイデンティティに関する比較研究を目的としたものである。 そのため、この半年間においては在米コリアンを中心として研究を行った。まず、既存の研究動向や先行研究を収集・整理し、本研究の研究史上での位置付けを明確にすることができた。具体的には、韓国と日本では、既に集めた資料を補充するため、9月〜11月の間に国会図書館の資料や在外コリアンに関して発表された雑誌などを中心として文献収集を行った。その上、アメリカでは、12月2日〜30日の間にUniversity of California (Los Angeles)やUniversity of California (Berkeley)の東アジア研究センターやUniversity of Southern Californiaの多民族共生文化研究センターなどをベースとして文献及び公文書資料の収集を行った。さらに、Los Angeles総領事館、Los Angeles韓国教育院、Los Angeles文化院などで資料を収集した。 また、12月2日〜30日の間にアメリカのロスアンゼルス周辺でいくつかの在米コリアンの家を訪問し、インタビューを行った。それにより総15家庭にインタビューを行うことができた。その結果、在米コリアンの生活や慣習について、全体的に予備的な理解を得ることができた。それにより、在米コリアンにおいて韓国の伝統文化がかなり継承・維持されていることが明らかとなった。さらに、在米コリアンはアメリカで韓国人そのものとして生活していた。それは、ホスト社会であるアメリカは多民族多文化主義であって、各民族が各々の文化特性を維持しながら暮らしているからであると思われる。これが在日コリアンと違う大きな点である。そのため、民族的アイデンティティも違うことがわかった。在日コリアンの場合は、その差別に抵抗する深層意識のために民族的アイデンティティが強いのに対して、在米コリアンの場合は、本国のプライドから出てくる肯定的な面からのアイデンティティが強いと考えられる。 このような文献収集と予備調査の結果を基にして、次回の本調査で日本とアメリカへの移住の歴史的経緯やホスト社会のあり方の違いが、在日コリアンと在米コリアンそれぞれの民族的アイデンティティの形成と存続にどのような影響を与えているかについて詳しく検討してみたい。 なお、その調査結果は学会への報告及び論文にまとめる予定である。
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