本年度は、研究分担者が日本で本格的な調査を進めるために、必要な設備や書籍などを買いそろえつつ、両研究者が研究課題にそって資料調査を開始した。 研究代表者の吉井は、長野県・東京都・千葉県で百済系文物の調査をおこなった。特に長野県では、浅川端遺跡出土の馬形帯鉤や、八丁鎧塚2号墳出土獣面帯金具などを実見し、製作技術の面から韓国での類例との比較検討を進めた。また、こうした遺物が長野盆地にもたらされた歴史的背景について、地元研究者と意見交換をおこなった。 研究分担者のSeong Jeong Yongは、福岡県を中心とする北九州と愛媛県、および中国で現地調査をおこなった。北九州では、古代交通路との関係に留意しつつ、百済の影響下、この地域に集中的に築造された古代山城を踏査した。また、その周辺に分布する古墳出土土器や馬具などの百済系文物の分布状況も調査した。愛媛県では、大分県と海を間において近接する宇和町から出土した鳥足文土器を実見し、この地域と韓半島西南部地域との関係を確認した。 中国では、南京市博物館・南京博物院・南京大学校博物館・尚州博物館などを訪問し、陶磁器と金工品を中心として、東晋・南朝の墳墓から出土した副葬品を調査した。その結果、百済地域から出土した中国文物の編年を行うために役立つ資料を見いだすことができた。また、百済地域に移入された文物が、その源流となる地域でどのような脈絡で用いられたのかを確認した。次に、南京の鐘山遺跡・上下定林寺・西霞寺千仏洞などの遺跡を踏査して、それらの地理的立地・出土遺物・南朝仏像様式の変化様相を調査し、南朝の仏教や精神世界が百済にどのような影響をあたえたのかを検討した。さらに、南朝文化研究を専攻する南京大学・賀雲〓羽先生、南京師範大学・周裕興先生らと意見交換を行った。
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