研究概要 |
我々の研究グループは,最近,Reシリサイド(ReSi_<1.75>)が無次元性能指数(ZT)1に迫る高い熱電変換特性を示すことを発見し,この高い熱電変換特性は格子中でのシリコン空孔の規則配列に起因し,単結晶ではこのシリコン空孔が一次元に空孔チャンネルを作る方向に特に特性がよいことを見出している.本研究では,このようなReシリサイドやチムニー・ラダー構造をとるRuシリサイドを取り上げ,遷移金属の少量(1〜2at.%)添加により,結晶欠陥(シリコン空孔の濃度,規則配列あるいはチムニー・ラダー構造における面欠陥)をナノ・スケールで導入制御し,ナノ構造の可視化解析とともに,"Defect Engineering"の観点から,熱電変換シリサイド系化合物の熱電変換特性を劇的に向上させるための指針を得ることを目的としている.本年度は,Reシリサイドの一次元空孔チャンネルの密度と配列を価電子設計から変化させ,熱電特性の向上を試みた.2元系では無次元性能指数は[001]方向で特に優れ,800KでZT=0.75を示す.Reとの価電子数の多寡により空孔濃度を増減させることができ,その結果インコメンシュレート相が形成されるが,合金元素量増加に伴いインコメンシュレート構造は,シアー構造からアダプティブ構造へと変化する。この変化がおきる合金組成は合金元素に依存し,Mo,W, Alなどでは少ない添加量でこの変化がおこるものの,Ru, Fe, Cr, Nbなどでは固溶限ぎりぎりまでシアー構造が安定となる.熱電特性は概して,シアー構造を取る場合に低く,アダプティブ構造を取る場合に高い.たとえば,2%程度の合金添加でアダプティブ構造が形成されるMo添加の場合,[001]方向で得られた無次元性能指数は800KでZT=0.85(n型)であり,2元系Reシリサイドをはるかに凌駕する.また,SiをAlで置換すると,結晶全体としては大きな微細構造の変化はないものの,双晶境界に局所的に,アダプティブ構造が散在して形成され,[010]方向の無次元性能指数は400KでZT=1(p型)を超える高い性能を示した.
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