研究概要 |
本研究では,当研究室で発見したM-Rasについて次の2点を解明することを目的とする.(1)M-Rasによる神経細胞分化誘導の詳細なシグナル伝達経路を解明する.(2)M-Rasは記憶をはじめとした高次脳機能を制御していると推測されるので,このような高次神経機能にかかわるM-Rasの標的蛋白質を同定して,その分子機構を解明する. PC12細胞において内在性のM-Rasならびに外来性のM-RasはNGFおよびFGF2によって活性化されることが標的蛋白質のNorelを用いたbull-downアッセイによって示された.しかしdbcAMPによって活性化されることはなく,またadenylyl cyclaseのアゴニストであるPACAPによる活性化の程度も低かった.したがってM-RasはNGFにより活性化され,神経細胞分化を誘導するが,PACAP→adenylyl cyclase→cAMPの経路で誘導される神経細胞分ににはかかわっていないと考えられる.一方,活性変異体のM-Ras(G22V)を導入したPC12細胞では,分化にかかわっているCREBのリン酸化が約80%の細胞でみれらた.この結果は,NGFにより活性化されたM-RasはCREBをリン酸化して活性化することによりPC12細胞の分化を誘導する可能性を示している.またin situハイブリダイゼーションによりM-Rasはマウス脳の海馬と小脳に顕著に発現していることが示された.M-Rasの結合蛋白質として酵母two-hybridスクリーニングによりADARを同定した.M-RasはGTP依存的にADARのC末端側に結合することが,two-hybrid結合アッセイとpull-downアッセイにより示された.これらの結果は,M-RasがADARを標的蛋白質として神経伝達物質受容体のRNA編集を制御することにより,高次神経機能にかかわっていることを示唆している.
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