世界の温暖地域で人の活動とともに分布を拡大し、地域生物相に破壊的なダメージを与えつつある、放浪種と呼ばれる一群のアリがいる。これらは、系統的には多岐わたり、撹乱依存、多巣多女王性、分巣繁殖などの共通の特徴で括られている。本研究では、沖縄における放浪種の分布拡大と侵入地域における優占性の機構を、生物間相互作用の観点から明らかにすることを目的とした。本年度は、まず代表的な放浪種であるツヤオオズアリとアシナガキアリの沖縄本島内の分布状況を調査した。前種は海岸線と、内陸部の開けた場所に見られた。海岸部では最も海岸線に近い部分に他のアリを排除して分布していた。一方、内陸部では他のアリと共存していた。いずれも、多巣多女王性を示すスーパーコロニー的で、近くの巣は蟻道で繋がり1つのコロニーを形成していた。それはおろか沖縄島北部と南部の離れた場所から採集された個体間にも敵対性は見られなかった。これはアリゼンチンアリで報告されている現象と酷似する。しかし、内陸(知花、琉大西原)で採集されたものと、各地の海岸で採集されたものの間には敵対性が見られた。海岸と内陸で2つの別個体群を形成していると考えられるが、有翅女王のサイズや色に違いが見られる事から、異なる環境に適応した別系統あるいは別種の可能性も示唆された。一方、アシナガキアリは人的改変のあった開けた場所に他種と共存しながら遍在した。また、各放浪種が高い乾燥耐性を持つゆえ、人的に改変された開けた環境で優勢になるとの仮説を検証するため、現在各種アリの生理特性を検討し放浪種と非放浪種と比較するため、現在各種を様々な湿度条件で飼育中である。
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