研究概要 |
充填スクッテルダイト化合物RT_4X_<12> (R=希土類,T=Fe,Ru,Os,X=P,As,Sb)は,R,T,X原子の組み合わせ方により,非磁性半導体・金属,金属-非金属転移,強磁性・反強磁性,超伝導,価数揺動,重い電子異常,四重極秩序,四重極近藤効果,近藤半導体,非通常型超伝導,非フェルミ液体的金属等々の興味深い現象を示すが,これらは,この物質系の結晶構造に特有の条件,即ち,4個のT原子および12個のX原子で囲まれた比較的広い空隙に希土類元素が充填されているという,希土類元素のf電子にとっての特別な環境下の新しい現象と考えられる.本研究の目的は,この物質系において見られる,極めて多彩な強相関電子現象を,中性子回折およびX線回折を用いて詳しく調べ、これらの現象のより正確な理解を目指すことにある.この目的に対して本研究は以下の成果をあげた. (1)CeOs_4Sb_<12>の中性子非弾性散乱による研究 CeOs_4Sb_<12>は,電気抵抗,比熱,帯磁率の特徴から,低温で約10K程度の低いエネルギーギャップが開く近藤半導体であると考えられている.本研究では,この物質の良質な単結晶ならびに多結晶資料を育成し,これらを用いて中性子非弾性散乱の実験を行った.その結果,本研究からは,帯磁率のデータから示唆されたような約300Kのエネルギーの結晶場分裂は安定には存在せず,低エネルギー側に磁気揺動によると思われる準弾性的磁気レスポンスがあることを明らかにした.以上のことは,この物質のf電子が伝導電子と強く混成していることを示しており,これがこの物質の近藤半導体的状態の原因であることを強く示唆している. (2)Ce_3Ir_4Sn_<13>の中性子非弾性散乱による研究 Ce_3Ir_4Sn_<13>は,希土類元素が,充填スクッテルダイト化合物の場合と同様に,非磁性元素(Sn)の籠状構造に内包されていること,重い電子異常を示すこと等から関連物質として中性子非弾性散乱による研究を行った.その結果この物質では,極めて鋭い結晶場励起が明瞭に観測され,重い電子現象との関連性については,結晶場励起が観測されないCeOs_4Sb_<12>の場合と対極にあることを明らかにした.
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