研究概要 |
前年度に、水銀-希ガス混合ガスのパルス放電において、希ガスの種類によって水銀の発光の立ち上がり特性が大きく異なっており、希ガスの準安定原子から水銀へのエネルギー移行が起こっていることが示唆された。 今年度に混合ガス栄光ランプの高輝度化・高効率化を念頭に置き、水銀の紫外および近紫外放射強度が強くなる条件の探索とその機構の解明を試みた。さらに、環境に配慮した無水銀光源の実現のために、窒素を紫外放射源として同様のエネルギー移行効果が得られるかを検証した。 まず水銀-希ガス混合ガスでは、He,Ne,Ar,Kr,Xeの5通りの希ガスについて、テスラコイルを用いて放電を起こした場合と、交流およびパルスで定常的に放電を起こした場合では、水銀の発光が強くなる希ガスの組み合わせは異なっていた。テスラコイル励起では、準安定準位が水銀の電離電圧に最も近いKrの場合に水銀の発光が最も強くなった。交流やパルス励起では、希ガス自身の発光強度が小さいことからも分かるように、希ガスが励起される度合いが小さいため、エネルギー移行によるペニング電離よりもむしろ希ガスの電子衝突断面積の違いによる効果が現れ、Heの場合に断面積が小さいために電子の平均自由行程が長くなり、水銀の励起が促進され、水銀の発光強度が最も高くなった。波長の異なる個々の水銀の発光を比べると、436nmの発光はNeを使用した場合に強くなり、365nmはArを用いたときに強くなった。パルス励起の場合のアフターグロー発光については、Arを用いたとき強く現れた。 水銀の代わりの発光物質として、近紫外域に多数の発光スペクトルを放射する窒素を使用し、水銀の場合と同様に希ガスとの混合ガス放電での発光特性を評価した。窒素の発光特性の励起方法による違いを比べると、水銀の場合と同様に、希ガスが励起される度合いの小さい交流や直流励起では、比較的低いエネルギー準位からの発光である赤色の波長領域の発光(1st positive system)が放射されるのに対し、テスラコイル励起のように希ガスが多く励起される条件では、赤色発光よりも高い準位からの放射である近紫外域の発光(2nd positive system)が強く放射され、希ガスから窒素への励起移行が確認された。 このように、高効率光源を開発する際には、発光物質と希ガス(バッファガス)との間のエネルギー準位の関係や、バッファガス混合による電子の平均自由行程の変化を念頭に入れ、最適なガスの組み合わせと条件を見出す必要がる。
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