琉球における文字論の先行研究を収集、検討し、八重山諸島、および宮古諸島における文字の使用状況の調査と資料収集をおこなった。琉球は、日本と中国という大国の間にあって歴史に政治的にそして文化的に両者の影響を強く受けてきたが、日本の周辺地域で類似の状況にある対馬や北海道のアイヌの言語状況や歴史に関する資料収集のための調査を行なった。研究課題解決のためには、琉球の歴史、とくに文化史的な研究成果をまなぶことと、琉球における古典文学の研究成果にもまなぶことが不可欠であり、高良倉吉教授(琉球大学法文学部国際言語文化学科・琉球史)と池宮正治教授(同上・琉球文学)の研究成果にまなびながら、多くの情報を得、琉球における文字受容の状況とその使用状況について意見交換と討議をおこない、そのなかで、中国との関係で漢文(中国語正書法)もなされるのだが、1609年の薩摩支配以降に琉球語を書き表すばあいも漢字を使用する頻度が逆に増えてくることが明らかになった。これはこれまでの琉球史や琉球文学の研究者も指摘していなかったことである。また、琉球語に固有の地名を表記する際に漢字が使用されるが、その使用法に漢字の意味を利用し発音を琉球語風にする「万葉仮名」的な漢字の使用方法があり、琉球語の漢字需要のありかたをかんがえるとき、琉球語固有の単語を表音表意文字である漢字をいかに利用したかが、琉球語における漢字需要の全体を明らかにする重要な視点になることがわかった。
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