研究概要 |
フィリピン群島スルー海はまわりの海と浅いシルで隔てられた閉鎖的な海盆である。熱帯域の貧栄養海域にありながら深海部が温暖な貧酸素環境になっているため,白亜紀温暖期貧酸素環境のモデル海洋となる。本研究は,スルー海の異なった深さから採集された海底表層堆積物中に含まれる底生有孔虫生体群の群集解析を行い,様々な海洋環境と対比させることを通じて貧酸素環境の生物指標を確立することを目的とした。 白鳳丸KH02-04次航海で採集されたマルチプルコアラー表層堆積物について7地点56試料から有孔虫を拾い出した。採取深度は、534、1053、2055、3059、3774、4074、4635mであった。試料から21,599個体拾い出し、285種を同定し,深度別の群集に分けた。種数,個体数共に貧酸素水塊において減少した。とくに石灰質種が著しく減少し,砂質種が増加する傾向が顕著であった。石灰質種の堆積物中での平均生息深度(ALD)は浅いところから深くなるに従って、0.47から3.05へと増加した。砂質有孔虫ははっきりとした傾向は出なかった。種-個体数データと環境データとをあわせて主成分解析を行ったところ、有孔虫群集は有機炭素量と溶存酸素量に相関して変化した。上部漸深海帯は有機物のインプットが高く、下部漸深海帯と深海帯は高い溶存酸素量であることから、スルー海の群集変化は、有機物と溶存酸素量に相関していることが明らかである。
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