研究概要 |
本研究では、野生生物におけるメタロチオネイン(以下MT)の生理学的・毒性学的役割を異性体レベルで理解するために、種特異的な元素蓄積特性を示すウミガメ類について、これまでに同定されている3つのMT異性体(MT-A,-B,-C)のmRNA発現量を測定し、各異性体の役割について検証した。2種のウミガメ類、アオウミガメとタイマイの肝臓および腎臓におけるMT異性体mRNAの発現を解析したところ、アオウミガメではMT-BとMT-Cは肝臓に比べ腎臓で有意に高い値を示したが、MT-Aでは有意な差は認められなかった。一方タイマイでは、MT-AとMT-Bが肝臓で有意に高く、MT-Cでは有意差はみられなかった。従って、MT異性体mRNA発現の組織分布は種によって異なることが推察された。組織中元素濃度とMT mRNA発現量の関係を解析した結果、アオウミガメの腎臓でMT-C mRNA発現量とCd濃度との間に有意な正の相関関係がみられた。アオウミガメは腎臓にCdを特異的に高蓄積していることから、ウミガメ類のMT-Cはとくに腎臓中のCdの解毒に深く関与することが伺えた。また、両種において、MT-AとMT-BのmRNA発現レベルの間に有意な主の相関関係が認められ、これら2つの異性体が同様の因子によって転写調節されていることを示唆した。以上の結果より、ウミガメ類のMT異性体はそれぞれ異なる元素の制御・解毒に関与する可能性が示された。ラットなどの実験動物では、MT発現に機能する転写因子が曝露した金属によって異なることが報告されている。今後、ウミガメ類においてもこうした転写因子を同定し、さらにMT遺伝子のプロモーター領域に存在する金属応答配列を解析することにより、元素特異的なMT誘導の分子機構を明らかにする必要がある。
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