研究概要 |
平成16年度には、近年イギリスで発見されたペルシア語史料『歴史の精華』第三巻の分析に取り組み、その史料価値について検討を行った。そして、その成果を「『歴史の精華』第三巻にみるサファヴィー朝の政治文化に関する予備的考察」『アジア・アフリカ言語文化研究』68,2004年,pp193-213として発表した。ここでは、史料の特徴として(1)家族関係に関する記述(2)王族に関する記述(3)行政・外交に関する記述(4)コーカサス情報の4点について得に優れた史料価値があることを明らかとした。さらに、この史料の最大の特徴であるコーカサス情報を利用してサファヴィー朝イランの対コーカサス政策について詳細に検討し、「シャー・アッバース一世の対カフカス政策-「異人」登用の実像」『史学雑誌』113編第9号,2004年,pp.1-37にまとめた。この論考では、「異人」をキーワードとして、サファヴィー朝宮廷における新要素としてのコーカサス系エリートが台頭する過程が、王朝の対コーカサス政策と結びついていたこと、その過程に新エリート自身が深く関与していたことを明らかとした。すなわち、王朝の対コーカサス政策は単なる辺境政策ではなく、中央宮廷内のパワーバランス再編を含んだ帝国権力の支配空間秩序の再編であったのである。この成果により、既存のイスラーム史の枠や国民史観を超えて、相互変容による「奴隷軍人」像の新たな理解を示すことができたと考えている。また、強制移住の問題をはじめ、従来扱われてこなかった領域についても今後の研究の基礎となる成果を得ることができた。このほか、スラブ研究センター冬季シンポジウム、日本スラブ東欧学会やロシア史研究会といったロシア・東欧研究の場で発表・コメントを行うことにより、中東研究の領域だけでなく、広くユーラシア世界全域を意識して研究の発展と成果の還元に努めた。
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