本研究の目的は、超臨界状態におけるアルカリ金属流体のミクロ構造を、放射光を用いて究明することである。しかしながら、反応性の高いアルカリ金属を高温高圧条件下で安定に保持する試料セルの開発例は従来なく、本研究の目的達成のためには試料セルの開発が極めて重要な課題であった。そこで本研究では、アルカリ金属との反応性の低いモリブデンを材質とした試料セルの開発に着手し、その開発を成功させることができた。試料セルは透過型であり、X線透過窓として電解研磨により40μmまで薄膜化した二つの単結晶モリブデンディスクを用い、それを0.4mmの試料保持部を間に挟んで配置することを大きな特徴とする。流体試料はその二つのモリブデンディスクの間に保持される。このように薄膜化した単結晶モリブデンを採用したことで、セルからのバックグランドを大幅に低下させることが可能となり、流体密度が低下する超臨界領域でも高精度な構造解析実験を行うことができた。実際に、流体ルビジウムを測定対象として、1850℃、210barまでのX線回折測定を世界で初めて実現した。その結果によると、二体分布関数より求めた最近接原子間距離が、金属-非金属転移領域に相当する臨界点近傍(〜0.3g/cm^3)から遠く離れた金属領域(〜1.0g/cm^3)において、極めて早い段階から減少し始めるという非常に興味深い結果が得られた。金属領域ですでに原子間距離の短い流体構造(例えば二原子分子など)が存在することを示唆するこの結果は、アルカリ金属の膨張様式に対する従来の認識を大きく変え、さらには、金属化した流体水素の大部分が二原子分子構造を保持しているという推測に対しても極めて重要な知見を与えるものである。
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