研究課題
特別研究員奨励費
膜タンパク質は、多種多様な脂質分子で構成される脂質二分子膜環境に存在しているため、その構造形成原理は水溶性タンパク質と大きく異なるが、その一般原理は殆どわかっていない。脂質二分子膜-タンパク質間相互作用を詳細に解明可能な方法論の発展が強く望まれている。研究代表者はこれまでに、多くの膜タンパク質の構成単位である膜貫通ヘリックスを形成する疎水性のモデルペプチドモデルペプチドX-(LALAAAA)_3-NH_2を用い、物理化学的手法によって、膜環境でのヘリックス-ヘリックスおよびヘリックス-脂質間相互作用の熱力学を詳細に計測可能な実験系を確立してきた。本年度は、膜貫通ヘリックスの疎水部の長さ膜疎水部の厚さのマッチングの熱力学に焦点をあて、ヘリックスの自己会合力および膜への分配が膜厚にどう影響を受けるかを調べた。ペプチドとして、上のものと組成は同じであるが対称な配列に変更したX-(AALALAA)_3-Y[X=NBD,Y=NH_2(III) or X=Ac,Y=DABMI(IV)]を用いた(長さ約30Åのヘリックスを形成)。膜疎水部の厚さは、不飽和結合を1つ持つアシル鎖を2本持つフォスファチジルコリンを用い、20Åから34Åまで変化させた。会合は薄い膜中では弱く(約-10kJ/mol)、膜が厚くなるほど強くなる(約-20kJ/mol)傾向にあった。また会合の温度依存性から、この会合がエンタルピー駆動であることがわかった。ヘリックス会合とは対照的に、膜厚がヘリックス長より薄すぎる、あるいは厚すぎる場合に、ヘリックスの膜への分配は減少した(薄い膜、厚い膜でそれぞれ約+2kJ/mol、約+8kJ/molの移行自由エネルギー)。薄い膜ではエントロピーの減少、厚い膜ではエンタルピーの増加により分配が妨げられていることが明らかになり、薄い膜と厚い膜での疎水部ミスマッチに対する応答は大きく異なることを示した。
すべて 2004
すべて 雑誌論文 (2件)
Biochemistry誌 49
ページ: 15610-15616
Journal of Peptide Science誌 10
ページ: 612-621