研究概要 |
光電子スペクトルには分子軌道からの一電子イオン化に相当する主線の他にshake-up等のサテライトも多く観測される。イオウやリンの2p内殻励起ではスピン軌道分裂が1〜2eV程度と大きいのでスピン軌道相互作用によって基底状態が一重項であっても内殻励起状態では一重項に三重項が混ざる。このような内殻励起状態を中間状態とした共鳴光電子スペクトルでは、通常の二重項のイオン化状態に加え、スピン禁制の四重項のイオン化状態が観測され得る。これまでにイオウを含む分子のなかでCS_2についてこのようなスピン禁制状態が見つかっている。 今回、OCS分子のイオウの2p_<3/2>→4π^*共鳴で共鳴光電子スペクトルを測定したところ、Bバンド(^2Σ)とCバンド(^2Σ)の間に3つのサテライトが観測された。これをab initio計算の結果をもとに解析したところ、これらのサテライトは、束縛エネルギーの低いほうから順にそれぞれshake-up電子が4π^*軌道にある3つの開殻を持つ状態、^4Π、^2Π,と^2Φ shakeup-likeサテライトであると同定できた。更に、サテライトのエネルギーだけではなく、強度についての知見を得るために、Auger様二電子脱励起過程に関与する二電子の交換相互作用を評価することで、中間状態からの遷移行列要素を解析的な手法で求めた。 また、内殻励起状態からの脱励起過程のうち光電子スペクトルでは、調べる事の出来ない内殻励起状態そのものについては、窒素とアセチレンの内殻-Rydberg領域の高分解能角度分解イオン収量スペクトルを測定し内殻軌道の交換相互作用によるgerade-ungerade分裂と、Rydberg状態と価電子状態の混合による振電相互作用の詳細を明らかにした。 以上の結果は、それぞれ、下記のリストの論文で発表した。
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