研究概要 |
【GaMnAs/n^+-GaAsトンネル接合発光素子の三端子制御による高効率スピン注入とスピン注入特性理解】 スピン注入層となる(Ga,Mn)As/n^+-GaAsトンネル接合と検出層となる発光ダイオード(LED)構造の間にオーミック電極を形成することにより、トンネル接合とLED構造を独立に制御し半導体へのスピン注入効率とその特性理解について評価した。LEDのバイアス電圧(V_<LED>)を固定し、偏光率のトンネル接合バイアス(V_<Esaki>)依存性を調べたところ、フラットバンド状態となるV_<LED>=1.40Vでは、V_<Esaki>増大に伴い偏光率は上昇し極大値を迎えた後に減少する。しかしV_<LED>を減少させると前述の依存性に加え、偏光率はピーク構造を示し高い値を示した。ピーク偏光率時のV_<Esaki>変化とLEDのバイアス状態の対応から、高いエネルギの電子がトンネル接合から活性層へ注入されるに従い偏光率が増大することが分かった。またピーク偏光率の状態は、(Ga,Mn)Asのフェルミエネルギ近傍のスピン偏極電子がバリスティックに活性層へ注入されることを実験的に初めて示した。半導体中の電子スピン偏極率は85.6%と計算され、(Ga,Mn)As自体のスピン分極率を反映する高い値であることを示した。 【電気的スピン注入による半導体中のスピン蓄積検出】 (Ga,Mn)As/n^+-GaAsトンネル接合を介して注入され、非磁性半導体に蓄積されるスピン偏極を比局所スピンバルブ測定法を用いて電気的な検出を試みた。試料はチャネル幅7.9〓mの(Ga,Mn)As 20nm/n^+-GaAs 15nm(Si:1×10^<19>cm_<-3>)/n-GaAs 500nm(Si:1×10^<16>cm^<-3>)である。スピン注入層と検出層との距離が10□mおよび20〓mの試料についてスピン偏極電位差ΔVの磁場依存性を調べたところ、スピン蓄積に起因する信号変化は雑音レベル(7μV)以下で観測されなかった。一方、接合部のトンネル抵抗を考慮した理論モデルによりn-GaAsチャネル層に蓄積されるスピン偏極を計算した結果、チャネル長10〓mにおけるΔVは1.9μVと測定系の雑音レベルと同等であった。以上の結果から、(Ga,Mn)As/n^+-GaAsトンネル接合による電気的なスピン偏極電位差の検出について定量的な検討と、実際の素子構造を反映した理論モデルの改善が必要であることが明らかとなった。
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