研究概要 |
本研究の目的は,レム睡眠中の急速眼球運動に伴う脳電位を用いて大脳皮質活動を検討し,夢の発生メカニズムを検証することである.具体的には,覚醒中の急速眼球運動(サッカード)前後に出現する脳電位とレム睡眠中のREMs前後に出現する脳電位の比較を行う.最終年度である本年度は,これらの脳電位比較の結果をまとめ(学術雑誌SLEEP受理),実際の夢見聴取内容,レム睡眠の神経機構および急速眼球運動の発生機構における生化学的な知見を踏まえた上で,夢の発生メカニズムについて総合考察を行った. 本年度,新たに検討した内容は,レム睡眠中にはREMsの開始に同期して中心部優勢に陽性電位(P200r)が出現し,その発生源は,感情的なイメージ体験や注意に関連する帯状回,および運動イメージに関連する運動前野に同定されたことである.覚醒中にはP200rに相当する脳電位は観察されなかった. これまでの研究結果より,レム睡眠中の急速眼球運動の役割および夢の発生メカニズムについてまとめると,(1)急速眼球運動の役割:レム睡眠中には覚醒中のサッカードとは異なる発生機序により急速眼球運動が出現し,眼球運動が生じることで夢の内容がより印象的になることを示唆した.この結果は,レム睡眠中の夢と急速眼球運動の関連から示された,夢の「活性化-合成化仮説」・「感覚映像・自由連想仮説」を支持する.(2)夢の発生メカニズム:レム睡眠中には,急速眼球運動が出現することで,それに連動して脳内で,情動・運動イメージ感覚が形成され,そこに眼球運動の終了に伴って生じる視覚イメージが統合されることで特有の鮮明な夢見体験が出現することを示唆した. 今後の展望 今度は,このメカニズムを手がかりに,生成された夢とは一体何か,夢を体験する意識とは何か,について大脳皮質活動の重要性に着目した検討を行う. 本年度購入した統計ソフト・大容量ハードディスク等を用いたことで,より効率的に実験研究のデータ蓄積・処理を行うことができた.本研究内容は,広島大学総合科学部実験倫理委員会行動科学部門で承認を得ており,実験の際には,実験参加者から書面でのインフォームドコンセントを得ることで,参加者の人権と利益の保護を行っている.
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