本研究課題について、本年度に得られた最も重要な成果として、複素射影直線の直積内の大円の積として現れる全測地的なラグランジュトーラスが大域的にハミルトン安定(すべてのハミルトンイソトピーの下で体積が最小であること)となることを証明することに成功したことが挙げられる。研究計画では、この研究は来年度に行う予定であったが、都立大の酒井高司氏、小野肇氏の協力により、証明に必要な積分幾何の公式が得られたため解決に至った。この研究成果は、日本学士院紀要に掲載されている。この現象は1990年にKleinerとOhにより複素射影空間内の実射影空間の場合に解決されたのが唯一の例であったので、今回の結果は十数年ぶりの貴重な進展であると考えている。今後、この例を含むより広いクラスの極小ラグランジュ部分多様体の大域的ハミルトン安定性の証明へ向けて研究を進める予定である。 また、ケーラー多様体内の極小ラグランジュ部分多様体のハミルトン安定性の理論を接触多様体に拡張する過程で、複素ユークリッド空間のハミルトン極小なラグランジュ錐に関する研究が進展した。2次元の場合には、SchoenとWolfsonにより、ハミルトン極小ラグランジュ錐が分類され、それらのハミルトン安定性も完全に分かっていた。そこで筆者は、3次元の場合の研究を開始し、平坦なトーラスをリンクに持つハミルトン極小ラグランジュ錐の3パラメータ族を構成し、その中にハミルトン不安定なものが無限個存在することを証明した。この研究成果は、Tokyo Journal of Mathematicsに掲載予定である。
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