研究課題にある「『単一的ジェンダー』の比較分析」の第1段階として、1990年代の日本について検討。「失われた10年」と称されるわが国の平成不況期を、労働市場、とりわけ女性労働の観点から分析した。 戦後の経済成長を支えた日本型雇用-終身雇用制および年功序列型賃金制に基礎を置く雇用システム-は、バブル崩壊後の不況期に入り、変容を迫られ、正杜員層に対するリストラの実施、非典型雇用および失業率の増大などが見られた。こうした事態は、かつての日本型システムにおける優位層である男性労働者にも及んだ。他方、この時期は、1986年に施行された男女雇用機会均等法をはじめ、労働の場における男女格差縮小を意図した法整備が、徐々にではあるが進められた。 これらの結果、わが国の労働市場におけるジェンダーも、従来のように「中核労働者=男性、縁辺労働者=女性」という単純な図式ではなくなったと推察される。すなわち、中核労働者層については、それが全体的に縮小していく中、女性の進出が見られ、かつ男性の衰退(参入・残留の困難)が確認された。また、特に女性労働者に関しては、正社員として好労働条件を保証された女性が増加する一方で、非典型雇用に従事する女性の労働条件が不況のあおりを受けてさらに悪化したため、二極化ともいうべき現象が生じたと考えられる。 このような労働市場における変容は、単に労働市場のみにとどまらず、わが国の標準世帯として戦後一般化した性別分業家族のあり方にも大きく関わり、少子高齢社会に少なからぬ影響を与えていよう。
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