研究概要 |
本研究は,荷電高分子鎖からなる分子機械(核酸や酵素など)の振る舞いを,環境との相互作用に基づく相転移挙動をキーワードに実験的に解き明かすことを目的としている.本研究期間においては,細胞サイズの脂質二分子膜胞(ジャイアントリポソーム:GL)におけるDNAを鋳型としたタンパク質(GFP)発現系の構築に成功した.その結果,GL内部におけるGFPの発現率がバルク溶液中よりも約10倍高いとの基礎的な知見を得た(CHEMBIOCHEM誌(2003)掲載).この機構に対するアプローチとして,反応の素過程を一つずつ詳細に確認してゆくという手法と,他のタンパク質発現系を用いた場合の結果から微小空間の効果を演繹的に議論する手法の二つが考えられるが,生体高分子機械の動作環境を知る研究においては後者のアプローチを行い,よりシンプルな酵素反応および高分子の相転移現象における微小体積の効果を測定することで環境との相互作用による分子機械の働きについての知見が得られると期待できる.関連して,自発的なリポソームの形成時に共存しているDNA分子が,リポソーム内部に濃縮されているという実験結果を得ている(Chem.Phys.Lett.誌(2003)掲載).(平行して,外部溶液よりDNA分子を細胞内へとレーザーを用いて非接触に導入する手法を開発し,植物細胞のプロトプラストにDNA分子を選択的に導入することに成功した(Appl.Phys.Lett誌(2003)掲載)).これらの実験結果は,細胞サイズの閉環境をつくる脂質膜構造が,内包したDNAやタンパク質等の高分子・低分子やイオンとの相互作用により(それらと同じ濃度に調製された)バルク溶液中とは大きく異なる環境をあたえうることを示すものである.これによって生物が荷電高分子機械を用いる場の特性と意義を知るための直接的な研究基盤が形成されたと考えられる.
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