私は、受入研究者のもとで、採用期間中に以下の実験を行った。 (1)化学的刺激に対する細胞のかたさ分布測定 アクチン-ミオシン相互作用を活性化させるlysophosphatidic acid (LPA)や、逆にそのはたらきを阻害するY-27632といった化学物質を細胞に投与し、細胞の形態とかたさ分布の時間変化をSPMにより同時測定した。この実験により、アクチン-ミオシンを活性化させると細胞は硬くなり、逆に不活性化させると細胞は柔らかくなることを明らかにした。この結果をもとに、アクチン-ミオシン相互作用が細胞内にはたらく張力の源であることと、その張力がかたさ分布や細胞運動に関与していることを示した。 (2)細胞運動にともなう接着点分布の時間変化測定 反射干渉顕微鏡(RIM)を用いて、ガラス基盤上を運動する細胞の接着点分布の時間変化を測定した。この実験により、新しい接着点は伸長した葉状仮足の内部に形成されること、細胞の収縮部では接着点が細胞の中心に滑りながら消失することを明らかにした。 これらの実験をもとに、細胞運動時に細胞各部を協調する機構として、細胞内張力に注目したモデルを提案した。このモデルは、培養細胞に見られるストレスファイバーの非等方的な分布についての説明を与えるものと考える。 以上の実験結果とモデルは、採用期間中に開催された3件の国内学会と1件の国際学会において発表した。また、論文としてまとめたものをJournal of Cell Science誌に投稿済みである。
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