研究概要 |
1.沖縄県石垣島、同西表島、北海道知床半島、小樽市忍路の各地において潮間帯還元環境の生物相調査を行い、多数のユキスズメ科貝類を採集した。これらのサンプルには、これまでに確認されていない未記載種が少なくとも2種含まれていた。また、海洋科学技術センター調査船なつしまNT03-06航海に乗船し、小笠原諸島海域の明神海丘および海形海山において深海熱水噴出域固有生物群の調査を行ったが、ここでも多数のユキスズメ科貝類を観察、採集することができた。 2.これまでに生体が得られているユキスズメ科貝類の24種47個体について、アルコール保存した組織からtotal DMAを抽出、PCR法を用いミトコンドリアDMA (COI,16S,12S)の約2500塩基対配列を決定した。最節約法ならびにベイズ法により系統樹を構築した結果、検討した24種は深海の種群と浅海の種群の2群に大別されることがわかった。このうち、浅海の種群は属レベルの4単系統群を形成したが、既存の属レベルの分類体系とは全く異なる結果となった。また、同種内個体群間の遺伝的差異はいずれもごく小さいことが判明した。 3.干潟潮間帯に生息するミヤコドリの成熟雌個体を室内水槽にて観察し、産卵行動ならびに同種の初期発生について検討した。その結果、同種が1日平均約8個の卵カプセル(各々のカプセルには平均25個の卵が含まれる)を産み付ける多産小卵型であることがわかった。孵化には約4週間を要し、孵化幼生はプランクトン栄養型であった。飼育下では2ヶ月で着底サイズにまで成長したが、腹足の発達などの変態や着底行動は見られず、その後死亡した。本科貝類が長期浮遊幼生期をもつことを初めて飼育により示したが、これは上述の地域個体群間の遺伝的均一性をよく説明する。
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