研究課題
特別研究員奨励費
本研究の目的は、一分子計測実験において観測された高分子電解質一分子の力学物性を理論的に理解することである。実験事実を要約する。DNAは溶液中で強く負に帯電した高分子であり、多価カチオン存在下では凝縮相へ転移する。光ピンセットを用いてこのDNAの広がりを制御し張力を測定すると、特筆すべき二種類の力学応答曲線が得られる。弱い凝縮に対しては張力が一定となるプラトー相が出現するのに対し、深い凝縮に対しては張力が急激な変化を繰り返す相が現れる。このような特異な弾性は、系の強い非平衡性と長距離の静電相互作用がもたらす複雑さを顕著に反映している。本研究では主に以下の二つの理論的考察を行った。相転移の理論と高分子の弾性が動的に結合したGinzburg-Landau型の現象論モデルを提案し、その理論的・数値的解析を行つた。モデルに基づくシミュレーションの結果、実験結果をほぼ定量的に再現する結果を得た。同時に、伸張過程における分子内部の構造変化を明らかにするとともに、実験で観測される張力曲線の履歴現象が有限速度の伸張を特徴付けるkineticな現象であることを界面ダイナミクスの観点から明らかにした。これらの成果をまとめた論文は初年度に公表済みである。DNAの凝縮転移は静電効果が引き起こすユニークな相転移のひとつである。静電効果が中心的役割を果たす相転移の大部分は理論的に未解明であるため、ミクロからのアプローチが不可欠である。そこで対イオンの効果をあらわに取り入れた、高分子のばねビーズモデルにもとづく動力学シミュレーションを行った。その結果、実験結果と見事に対応する力学特性を再現し、さらに対イオンの空間構造を調べることにより、これらの力学特性のミクロレベルからの理解を確立した。主な成果をまとめた論文は現在、Physical Review E誌に投稿中で、今後掲載の見込みである。
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Journal of Statistical Mechanics Theory and Experiment
ページ: 1-1
Proceedings of the international school of physics, Enrico Fermi 155
ページ: 489-489
Physical Review E 69
ページ: 31202-31202