研究概要 |
シロテテナガザルHylobates larは、個体間で体毛色の明確な二相性(暗相と明相)を示す。先行研究から、暗相は明相に対して優性で、単一座位の対立遺伝子によって制御されている可能性が示されている。この二相性の背景となっている分子基盤を解明するために、哺乳類におけるメラニン合成に重要な役割を果たすタンパク質をコードする遺伝子のうち、melanocortin 1 receptor gene (MC1R), membrane associated transporter protein gene(MATP), P-protein gene(P), Pmel17 protein gene(SILV), tyrosinase gene(TYR), tyrosinase related protein 1 gene(TRP1)について、シロテテナガザル種内での遺伝的多様性をPCR-ダイレクトシークエンシング法などの手法を用いて調査した。また、他のテナガザル6種についても上記遺伝子の塩基配列決定を行った。 シロテテナガザル26個体(内暗相12個、明相14個体)を調査した結果、これらの遺伝子上に50個所の多型部位を同定した。その内訳は、非同義多型12箇所、同義多型17箇所、イントロンなどのタンパク質非コード領域21箇所であった。これまでに仮定されていた単純な優性メンデル遺伝と符号するような多型の存在は確認されなかった。しかしながらMC1RのHis225Tyr多型におけるTyr対立遺伝子は、明相の個体間でより高い頻度で存在する上、in vitroにおける機能解析の結果、melanocortin 1 receptorのcAMP産生能を低下させることが示唆されている。シロテテナガザルの体毛色多様性は、MC1RのHis225Tyr多型をはじめ、今回同定された多型の幾つかの組み合わせによって決定されている可能性が考えられる。
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