本年度は、昨年度に引き続き、教育学・死生学・精神分析という三つの領域・方法が交叉する場所で思考しつつ、三者が互いにいかなるインパクトを与え合うのかについて、より具体的なビジョンを提示することを試みました。特に精神分析理論が、他の二者に対して新たに拓く地平を明らかにしてきました。 まず教育学に関しては、「大人が子どもについて語る」もしくは「大人が大人と子どもの関係について語る」という営為そのものにまつわる問題性に光をあてようとしました。それは、教育における語りや思考の限界点に関する分析であり、大人と子どもの人称性(客観的な三人称、臨床的な二人称、実存的な一人称さらには非人称)の考察であり、大人と子どもの二分法そのものを問い直すものです。 次に死生学に関しては、死という出来事そのもの、その固定的な瞬間により関心を持つ従来の「死生学」もしくは「デス・エデュケーション」に対して、人の一生をプロセスとしてみる視点(人間形成論・教育人間学)から、誕生と死、もしくはそれ以前/以後という問題系が、「いまここ」の生に与える「効果」の問題を「子ども(時代)」という記憶、感覚、性質を媒介として考察しました。それは、逆説的ですが人生のプロセスという連続性に裂け目を刻みつける断絶、否定性の契機であり、人生の線形の流れを解体させる様相を開示させるものとして提示されます。 総じて、教育学・死生学・精神分析の領域を横断しつつ、各々の原理的なレベルでの問い直しを思想研究として展開することに本年は費やされました。
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