平成16年度に行った研究は、主に以下の二つの作業による。第一は、前年度に行った1990年代以降の国連の集団安全保障制度の実行およびその評価をまとめる作業を踏まえて、同制度において生じている変化を、軍事的機能の強化と非軍事的機能の多様化という二つの流れによって分類し、議論を整理する作業である。前者には、国連憲章第7章にもとづいて採択された安保理決議によって授権を受けた多国籍軍の活動および国連平和維持活動が含まれる。後者には、カンボジア、東スラヴォニア、コソボ、東チモールなどで行われてきた暫定行政を中心に、治安維持活動から幅広い文民行政活動まで担うようになったそれらの実行と評価を整理した。 第二は、冷戦後の国連による安全保障活動では実施段階のみでなく意思決定段階においても、加盟国、国連機関、他の国際機構、さらに国際および国内のNGOなどの多様な主体が関与している事実とその評価を整理し、この「多主体間主義(multilateralism)」にもとづいた活動が、第一の作業で考察した安全保障機能の変化を促進する重要な要因になっている可能性について考察する作業である。また、このように多様な主体が関与しつつ政策を立案、決定、実施、評価をする国連の安全保障機能を、昨年度行った近年の米国による「単独行動主義(unilateralism)」的な安全保障政策と比較する作業も並行して行った。 以上の研究を踏まえて、11月に博士論文の執筆を開始し、平成17年度中の完成および学位取得を目指している。論文の完成後には、本奨励金の研究成果として発表する予定である。尚、研究に従事している大学院の規定により、平成16年度分の研究内容については「研究報告書」を作成し、2月末に担当部署に提出済みである。
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