平成16年度も引き続き、本研究課題であるギリシャ語旧約聖書(「七十人訳聖書」)の全般的な議論の検討を行ってきた。その中でも、本研究はキリスト教からのアプローチが中心となるので、新約聖書との関連、具体的には、引用箇所をより詳しく検討を行っている。特に受容という観点からの検討を試みており、中でも、新約聖書最大の文書であるルカ文書(「ルカによる福音書」と「使徒言行録」)においての検討を中心としている。その場合も、従来からの伝統的な文献学の手法にとどまることなく、現代文学理論との対話を試みている。個別に扱われがちな資料・著者・受容者という三者を一世紀のパレスティナという土地とユダヤ教という文脈(そしてそこから新しく生まれ出る潮流)に則しつつ、新しい手法での解明を行っているところである。 また中東キリスト教の事例として、世界で最初にキリスト教を国教として受容した国であるアルメニアにおけるキリスト教受容と発展を、隣国であるイラン(ペルシャ)との関連に基づいて検討を行った。両者は歴史的に深い関わりがあり、現在でもイランにおける最大のキリスト教徒はアルメニア人である。また、この問題をさらに幅広い視点から検討するための論文を作成中である。キリスト教世界のマイノリティとして、また、中東世界のマイノリティとして生きる東方諸教会を学ぶ意義を検討するこの論文は、本研究課題の現代的意義を再確認するものであるといえよう。
|