研究分担者 |
MELANA Emma フィリピン環境資源局, 生態系調査開発部, 調査専門官
津田 智 岐阜大学, 流域環境研究センター, 助教授 (50212056)
藤本 潔 農林水産省, 森林総合研究所・森林環境部, 研究員
持田 幸良 東北大学, 理学部, 助手 (60133047)
宮城 豊彦 東北学院大学, 文学部, 教授 (00137580)
河名 俊男 琉球大学, 教育学部, 教授 (60044955)
山中 三男 高知大学, 理学部, 教授 (50004461)
GAWEL Mike ミクロネシア資源開発局, 海洋資源部, 管理官
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配分額 *注記 |
10,500千円 (直接経費: 10,500千円)
1994年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
1993年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
1992年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
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研究概要 |
すでに始まっているともいわれる地球温暖化が海面の上昇をひきおこしたとき,潮間帯の生態系であるマングローブ林が壊滅の危機にさらされるのではないかとの危惧が持たれている.しかしその立地には砂泥の流入・堆積があり,マングローブ自身が生産する有機物が泥炭となって地表を埋積するという作用もある.これらは海水準の上昇に抗して立地を維持するように働く,そもそも海水準の変動は過去に幾度もあり,後氷期にかぎっても,5千年前ころに最高位に達したあと一旦は下降し,2千年前頃から再び上昇して現在に至ったことが知られている.本研究はこのような海水準の変化の歴史,特に最近2千年の上昇に際して立地がどのように形成・維持され,その歴史を通じて確立された現在の立地がどのようにマングローブのあり方を規定しているかを究明しようとするものである. 調査地にはミクロネシアとフィリピンを選んだ.前者は太平洋地域にあってその陸地は沈降傾向にあるとされている.従って海面の上昇は強調され,相対的に大きな値となっていることが期待される.対照として大陸縁辺に位置するフィリピンを選んだ. 地形の解析とこれに関連して採取したサンゴ化石のC-14年代測定値やマングローブ林の地下に堆積している泥炭の年代測定値などを総合すると,ミクロネシアのコスラエ島では約3700年前頃に海水準がピークをむかえ,その高さは現在よりも1mほど高かった.その後低下に向かって約2000年前頃には現在の海面よりも逆に2m近く低くなり,その後ふたたび上昇に転じて約700年前頃にほぼ現在と同じ高さに達したと推定された.ほかにミクロネシアのポンペイ島やフィリピンのボホール島,ルソン島でも同様の年代測定をおこない,それぞれ基本的には同じような海水準変化を示す結果が得られた. マングローブ林はおよそ平均海面付近から高潮位付近までの範囲に成立し,泥炭の集積もこの範囲内にとどまるはずであるが,ミクロネシアではこれをはるかにしのいで,厚さ2m程度に達する泥炭層を広く見いだすことができた.その底はマングローブの生育可能な潮位範囲よりもはるかに下にあり,当時の平均海面はこの高さかそれよりも低位にあったとみるほかない.この泥炭層の最下部から採取した泥炭のC-14年代測定からは約1800年前のものという結果が得られた.約2000年前に下限に達した海面低下によって離水した土地にマングローブ林が成立し,その後の海面の上昇分を埋めるように泥炭が堆積し,立地が維持されてきたと読み取れる. 泥炭層の厚さを年代値で割れば年あたりの堆積量が得られる.本調査で各地から得られたこの堆積速度を総合してみると,平均で年約2mmであった.これはとりもなおさずこの地域のマングローブ生態系が海面上昇に対して持っている立地維持能力である.ただしこれは平均値で,限界値としてはさらに大きな値を期待することができる.今回測定された最大値は年約5mmであった. ミクロネシアのマングローブ林には全体を通じてオヒルギとフタバナヒルギが生育しているが,これに加えてマヤプシキがめだって多い森林とマヤプシキが欠けてホウガンヒルギが混じる森林の二つのタイプに大別される.前者の立地には厚さ50cmから1m弱の泥炭層がみられるが,この発達に海面の上昇はかならずしも必要な条件ではない.現在の潮位の範囲内でもこの泥炭層の発達,ひいてはこのタイプのマングローブ林の成立は可能である.これに対してホウガンヒルギを含むタイプのマングローブ林ははるかに厚い泥炭層の上に成立していて,この泥炭層の形成には海面上昇が密接に関連したものと見られる. フィリピンのマングローブ林もマヤプシキ,フタバナヒルギ,オヒルギを主とする点で上記ミクロネシアのマヤプシキタイプに基本的には対応するものであった.泥炭層の厚さはせいぜい50cm程度で,海面が現在の高さに落ちつくとともに成立したものである可能性が高い.それ以前から継続するとみられるマングローブ林は見あたらなかったが,約2000年前に堆積が始まり,現在は粘土層に覆われた厚いマングローブ泥炭層をボーリング調査によって発見した.原植生でははここにも厚い泥炭層を基質にする別のタイプのマングローブ林が少なくとも局所的には存在していたものとみられる.
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