研究課題/領域番号 |
04041024
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
板垣 博 埼玉大学, 教養部, 教授 (20125884)
|
研究分担者 |
末広 昭 東京大学, 社会科学研究所, 助教授 (60196681)
田島 俊雄 東京大学, 社会科学研究所, 助教授 (10171696)
河村 哲二 帝京大学, 経済学部, 助教授 (20147010)
上山 邦雄 城西大学, 経済学部, 教授 (90095307)
公文 溥 法政大学, 社会学部, 教授 (50061239)
川辺 信雄 早稲田大学, 商学部, 教授 (50153002)
〓 照彦 (とう 照彦) 名古屋大学, 経済学部, 教授 (60089977)
安保 哲夫 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90013028)
TWU Jaw-yann Nagoya University, School of Economics
陳 正澄 国立台湾大学, 経済学系, 教授
|
研究期間 (年度) |
1992 – 1993
|
研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
|
配分額 *注記 |
10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
1993年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
1992年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
|
キーワード | 技術移転 / 生産システムの国際移転 / 日本型生産システム / 海外生産 / 自動車産業 / 電機産業 / 作業組織 / 技能形成 / 生産管理 |
研究概要 |
本研究の焦点は、日本の自動車および電機産業(それぞれセットメーカーと部品メーカーを含む)の国際競争力を支える経営と技術の体系、とりわけ工場現場の〈人の要素〉に着目した生産システムの国際移転の問題にある。日本企業が海外で生産を行なう際に、こうした経営資源上の優位を現地に持込む側面を「適用」、現地環境にあわせる側面を「適応」と呼び、その両者のハイブリッド如何を考察するのが我々の調査のポイントである。こうした問題意識に基づき統一的な作業枠組のもとで、92年の韓国・台湾調査(調査対象34工場)、93年のシンガポール・マレーシア・タイ調査(調査対象35工場)を行った。ただ、93年に行ったアセアン3ヵ国の調査結果はまだ十分に整理されていないので、この概要では韓国・台湾調査から得られた成果の要約を主としたい。 まず第一に、最大のポイントは、職務区分など作業組織の在り方にしろ、賃金や昇進制度など処遇の面にしろ、人の要素に関連した日本方式がそれほどの努力を要せずにすんなりと現地に入り込んでいることである。職務区分についてみると、韓国と台湾においても日本とほぼ同様に職務の概念があいまいで、欧米流の確固としたディマケーションは存在していない。これは、柔軟な作業の組み方や人の動かし方を可能にする最も重要な前提条件のひとつである。賃金制度においても、伝統的なアメリカ企業にみられるような仕事別に賃金が定まっている職務対応型のものではなく、日本の職能資格制度と形の上では極めてよく似た級号制度を採用している工場が多くを占めている。 職務区分や賃金体系という前提条件が整っていることもあずかって、教育・訓練や昇進に関する適用の程度もかなり高い。こうした人的要素の核心部分に関わる適用の度合が韓国と台湾において高いのは、現地にアメリカにみられるジョブ・コントロール・ユニオニズムのような制度上の抵抗要因が少なく、したがって日本方式が大きな摩擦なしにそのまま入り込みやすい、というのが最大の理由であろう。 次に、アメリカの工場に比べて(当研究グループは同一の視角に基づいて以前在米調査を行っている)、現地工場へ派遣されている日本人の比率が格段に低く、したがってまた経営上層部に占める現地人経営者の比重や発言力が高い点に注目したい。その一番の要因は、韓国や台湾人経営者が日本方式に対してそうとうに深い理解をもっている、ということに帰せられるであろう。また、現地人経営者の日本語能力の高さも日本方式の理解を深めるのに大いに与っているのは間違いない。 しかし第三に、職務区分など制度面での適用が進んでいるにもかかわらず、ジョブ・ロ-テーションによる多能工化の進展や、いわゆる現場での品質のつくり込みなど運用実態面での日本方式の浸透はまだまだ限定されている点が重要である。制度・形式面での適用と運用実態面での適用との間に落差が生じる原因は、企業の内と外の両方にある。企業外の社会環境に由来するものとしては、人の移動の大きさ(離職率の高さ)と社会的格差の存在が、幅広い長期的熟練の形成や参画型の経営の阻害要因になっていることが挙げられる。一方、日本製品との直接的な競争がなくそれほどの規模でもない市場を相手にしているかぎり、なおかつ80年代の末に賃金と為替が急騰するまでは、企業の側にとっても実質面での日本方式を導入するインセンティヴは大きくなかったであろう。 第四に、生産設備や調達部品などの面では、日本の親工場、日本国内の部品会社、現地に進出している日系部品メーカーへの依存度が、アメリカと同様に高い。しかも、重要部品になればなるほど日本国内や日系メーカーへの直接・間接の依存度が高くなる。この点は、日本国内で培われ蓄積されてきた出来合のモノ(部品会社との関係を含めて)に現地工場が支えられているという、日本企業の海外生産一般に共通する特性の現れと言えよう。
|