研究分担者 |
PIGG Kathlee アリゾナ州立大学, 理学部, 助教授
DARNAEDI Ded インドネシア国立生物学研究開発センター, 研究員
秋山 弘之 兵庫県立姫路工業大学, 自然環境科学研究所, 助教授 (70211696)
植田 邦彦 金沢大学, 理学部, 助教授 (60184925)
岡田 博 大阪大学, 理学部, 講師 (40089892)
今市 涼子 玉川大学, 農学部, 助教授 (60112752)
西田 治文 国際武道大学, 体育学部, 助教授 (30164560)
KOMARA Dian インドネシア国立生物学研究開発センター, 研究員
WARSITA Uway インドネシア国立生物学研究開発センター, 研究員
RIGBY John F クイーンズランド地質学研究所, 主任研究員
長谷部 光泰 東京大学, 理学部, 助手 (40237996)
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研究概要 |
1.前2年度の調査研究によって提唱した,原始的被子植物の胚珠の系統発生について我々が提唱した仮説をさらに検証するために,ディレニア科,デゲネリア科,ユ-ポマティア科,シキミモドキ科,オーストロベイレイア科などの胚珠の発生学的研究を行った.その結果,ディレニア科と他の科は系統的に離れているにもかかわらず調べたすべての科において胚珠はよく似た形態形成を示した.最初半球状の突出物として現れた胚珠原基は生長のつれて湾曲を始める.その過程で内胚珠に続くかほぼ同時に外珠皮が形成する。内珠皮は珠心を取り巻くリング状の突起であるが,やがてコップ状になる.それに対して,外珠皮は珠柄内側で欠失したC字状の突出物として発生し,成熟するとずきん状あるいは幌状になる.このような内珠皮と外珠皮の明瞭な形態的な違いは両者が系統発生的に異なる構造であり,内珠皮がテローム起源であるのに対して,外珠皮はたとえば葉のような扁平な器官から系統発生したと推定される.したがって,上の仮説は本研究によって強く支持された.さらにシロイヌナズナ(アブラナ科)などさらに系統が離れた科でも珠皮が同様の形態であることが報告されており,被子植物全体についてこの仮説が妥当である可能性が非常に高い.さらにその妥当性を確かめるために,センリョウ科など被子植物の系統上問題の多い群についても研究を進めている.このように,外珠皮が葉的な扁平な器官から系統発生したものであり,葉的器官である心皮の上にさらに葉的構造が付着するという仮説は次第に確からしいことが示されつつあるが,これはこれまでの被子植物の心皮(めしべ)の相同性に関する常識と相容れないものである.この線に沿った研究をさらに発展させていくことによって,被子植物の心皮の胚珠の系統発生がより明らかになり,被子植物の起源に肉薄できるようになると期待される. 2.前2年度で収集した化石資料を用いて被子植物の花の起源を推定する研究を行った.被子植物の祖先裸子植物の1つと考えられるグロッソプテリス類は葉の向軸側から胞子葉が分枝するとみられる点で特異である.今回の研究で,胚珠が胞子葉の向軸側に多数ついていることが確かめられた.また,2袋性の花粉の形態もさらにはっきりしてきた.従来推定されてきたように,胞子葉が葉の向軸側から分枝するかどうかを確かめるために,現在さらに詳細な観察をおこなっているところである.もしこの点がはっきりすると,原被子植物とみられるグロッソプテリス類の生殖器官と被子植物の花とくに心皮と胚珠の相同性が検討され,上記の仮説が正しいからどうか異なった角度から検証されると期待できる. 3.原始的被子植物科を含む種子植物の系統解析はrbcLの遺伝子の塩基配列を用いた分子系統学的研究によって行われた.その結果はこれまでの形態形質の比較によって推定された系統関係とは相当違ったものであり,さらに検証が期待されるものであった。我々はこれまでに収集した資料をもちいてrbcLとは異なる遺伝子の塩基配列を決定して,分子系統を作成することを現在進めている.1 )で列挙した科の中の一部については塩基配列がすでに決定されているが,残りのものについては技術上の問題で少し遅れている.この研究によって原始的被子植物科の系統関係が,ひいてはその初期系統分化がより明らかになるであろう. 4.フィジ-島,ロクボク島,スンバワ島で維管束植物全般についても資料採集を行った.また,前2年度でオーストラリア,ニューカレドニア,チリ,ニューギニアらか収集した標本を現在整理中である.これらの地域の中でとくにスンバワ島とニューギニア(イリアンジャヤ)は調査がきわめて不十分であったので,学術上貴重な資料である.これらの標本および過去の調査で蓄積された標本を用いて,原始的被子植物が分布する地域の植物相について分類学的,植物地理学的研究を行いつつある.
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