研究分担者 |
KATSIVO M. ケニヤ医学研究所, 研究センター, 所長
GAKINYA N. ケニヤッタ国立病院, 歯科医長
GUTHUA S.W. ナイロビ大学, 歯学部, 教授
大橋 克巳 東京大学, 医学部・分院, 教務職員
坂下 玲子 鹿児島大学, 歯学部, 助手 (40221999)
黒江 和斗 鹿児島大学, 歯学部, 講師 (00153396)
桑原 未代子 藤田保健衛生大学, 医学部, 助教授 (40070940)
伊藤 学而 鹿児島大学, 歯学部, 教授 (60005064)
井上 昌一 鹿児島大学, 歯学部, 教授 (30028740)
井上 直彦 (イノウエ ナオヒコ) 元東京大学, 医学部・分院, 助教授 (30014038)
GAKINYA Nicholas Kenyatta National Hospital, Chief Resident, KENYA
GUTHUA Simon University of Nairobi, College of Health Science, Professor, Dean, KENYA
STEVENS D. テンウイック病院, 病院長
KAIMENYI J.T ナイロビ大学, 歯学部, 教授
中野 錦吾 岩手医科大学, 歯学部, 助手 (50227849)
塩野 幸一 鹿児島大学, 歯学部, 講師 (50117511)
|
研究概要 |
食生活の変容に伴う咀嚼器官の退行的な変化と,これによる歯科疾患の蔓延は,開発途上国では都市を起点とする空間的な分布として生体上において観察できる.このような観点から,口腔の健全性を脅かす食生活要因の解明を行うことで,食生活と歯と顎骨の不調和に関して,地域,民族を超えて現れる普遍性を確認し,最終的な検討を行うこととした. 初年度の調査では,次年度に予定した本調査の折衝に関する予備調査として行った.調査を計画した地区と民族は Lodwar(Turkana族),Kapenguria(Pokot族),Malalal(Samburu族),Kisumu(Luo族およびMaasai族),Nyeri(Kikuyu族),Tenwek(Kipsigis族),Nairobi(諸部族混合),及びMombasa(諸部族混合)であった.調査内容は1地区300名,合計2,400名を対象とし,1.諸部族の生活環境,基礎産業,食生態の概況などの環境調査,2.食生活,育児などの面接調査,3.人類学的計測(頭部および体位の測定),4.口腔機能の測定,5.口腔診査,6.歯列の印象彩得,7.写真撮影を計画した。予備調査では,ケニア共和国大統領府および政府関係機関,ケニア側研究協力機関,さらに地区医療機関などの関係者と協議を重ねて本調査の準備を整えることができた. 第2年度の調査には3ヵ月の期間を設定したが、ケニア国の調査許可に関わる委員会運営の遅滞から時期が著しく遅れ,当初の計画を実施することは不可能となった.このため本研究目的を損なうことのない範囲で対象地区を削減することとし,北部辺境のLodwarと首都Nairobi,およびその中間にあるKerichoの3地区に縮小した.しかし,調査内容には変更を加えることなく,また,地区当りの対象数を増やすことで内容の充実を計った.また,現代ケニア人に連続する近世ケニア人頭骨の調査も併せて行うこととした. 本調査は1994年1月1日〜2月24日の期間,現代ケニア人は0歳から老年まで合計1,278名について,また,ケニア人頭骨の調査は,英国,自然史博物館,およびケンブリッジダ大学所蔵ものについて行った. 調査の結果,1.食生活データの多変量解析から,常食としていたウガリやスクマの摂取状態に大きい地域差がありNairobiで減少していることが判った.また,反対にヨーロッパ風の食事ではLodowarのTrukana族の摂取頻度が最も低かったが,全体として西欧風の食事に変わっている傾向があり,若い世代で強く現れていた.2.Turkana族の体系は痩せ形で,身長が高い特徴がみられた.3.歯と顎骨の不調和と不正咬合の頻度にも地域差が認められNairobiが多く,特に混合歯咬合期を中心とする若年世代に多くみられた.4.一方,咬筋筋電図では反対にLodwarでは,咀嚼の回数は少なく電位も低い傾向がみられた.5.歯科疾患では,齲蝕,歯周疾患,などの状態からLodowar地区では他と比較して健全な状態が伺われた,しかしフッソ症の頻度はLodwar,Kericho,Nairobiでそれぞれ38.7,9.8,5.9%でLodwar地方の地質の影響も考えられた.6.現代ケニア人には最近まで下顎中切歯を抜歯する風習が残っておりLodwarで24.5%,Kericho,13.8%,Nairobiでは1.6%の頻度でみられた.ケニア古人骨にみられる抜歯は86.2%で,抜歯風習は時代とともに無くなっていることが認められた.一方,乳歯の抜歯風習がLodwar地区で行われており,多数の乳歯欠損の小児が観察された. 最終年度の調査は1994年8月30〜9月24日まで,本調査では十分確認できなかった地区環境のうち,特に古い生活形態の存続しているLodwarを中心に行った.1日約60〜100kmの半径で,辺境の少数部落を廻り,風土の実態,食生活,育児,民間医療などの詳細を観察することが出来た.これによって,Lodwar地区の生活は同地域で拡大しつつある砂漠化の影響を強く受けて厳しい状況にあることが明かとなった.そのことは食料生産,水の供給など生活の基本的な部分に当たるもので,今後の解析に際して貴重な情報となることが考えられた. これらの一部はすでに発表をしているばかりでなく,ケニア側分担研究者のNGAKINYA氏を招へいしてシンポジウムを開催した.各分担研究者の発表から本研究の目的とした食生活と歯と顎骨の不調和に関して,現代ケニア人,および近世ケニア人頭骨の調査から高い関連性のあることが推察され,この現象は民族を超えて認められることが考えられた。
|