サラワクのフタバガキ林における植物の繁殖システムと動物の季節変動

• 研究課題/領域番号: 04041067
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 井上 民二 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (90109041)
• 研究分担者: MAHMUD Bin M サラワク林野庁, 研究員 ; ABDUL Rahman サラワク林野庁, 研究員 ; HAMID Abang サラワク林野庁, 研究員 ; LEE Hua Seng サラワク林野庁, 研究担当次官 ; 井上 健 信州大学, 教養部, 助教授 (40176425) ; 永益 英敏 京都大学, 総合人間学部, 助手 (90218024) ; 山根 正気 鹿児島大学, 理学部, 助教授 (30145453) ; 市野 隆雄 香川大学, 農学部, 助手 (20176291) ; 加藤 真 京都大学, 総合人間学部, 助手 (80204494) ; 寺内 良平 京都大学, 理学部, 助手 (50236981) ; 湯本 貴和 神戸大学, 総合人間学部, 講師 (70192804) ; 甲山 隆司 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (60178233) ; MERDEK Mahmud Bin Researcher, Forest Research Branch, Forest Department, Sarawak ; ABANG A Hami サラワク林野庁, 研究員
• 研究期間 (年度): 1992 – 1993
• 研究課題ステータス: 完了 (1993年度)
• 配分額: 19,000千円 (直接経費: 19,000千円); 1993年度: 9,500千円 (直接経費: 9,500千円); 1992年度: 9,500千円 (直接経費: 9,500千円)
• キーワード: 熱帯雨林 / 混交フタバガキ林 / 環境変動 / 植物繁殖システム / 動植相互作用系 / 送粉共生系 / 個体群動態 / 遺伝構造 / 個体群遺伝構造

研究概要

サラワク林野庁との協力のもと，予定していた調査区の設定，整備が完了した．また，以下の調査項目が順調に進展している．成果の発表も国内国外でではじめ，本林冠調査区は国際的にも熱帯林研究の拠点のひとつとして認知されつつある．
(1)林冠観測システムの設営．サラワク州ランビル国立公園内の混交フタバガキ林内に8ヘクタールの林冠調査区を設定した．10×10メートルの枠をきり,地形測量をおこない，胸高直径40センチメートル以上の樹木にタグをつけた．この林冠調査のほぼ中央に2本のツリータワー(高さ50メートル)と9本のウオークウエイ(全長300メートル)からなる林冠観測システムが1993年3月に完成した．調査区の最大樹高は70メートルをこえるが，そのほぼ先端部までザイルでアクセスできるようになった．
(2)ツリータワーの35メートル(高木層の上部)に微気象自動観測装置の設置が完了し，連続観測を開始した．1年間にわたる10分間隔のデータが入手でき，微気象の垂直構造，季節変化が解析できた．
(3)林冠部4ケ所に昆虫採集用の各種トラップ(ライトトラップ，マレーゼトラップなど)を設置し，月2回の調査を1992年8月より開始し，現在も継続中である．1993年8月までの最初の1年間の標本に関しては，亜科レベルでの分析が終了し，論文を投稿中である．この1年間で採集された昆虫は百万頭に達し，これまで解析がすすんでいなかった林冠部での昆虫の分布様式をあきらかにできた．現在，重要な系統群(アリ，ハナバチ)で種レベルの解析がすすんでいる．
(4)植物フェノロジー調査．ツリータワー，ウオークウェイぞいの樹木，つる，着生などすべての植物，約600個体に個体識別コードをつけた．月2回，個体ごとに開花，結実にいたる繁殖ステージと展枝，展葉の生長ステージの調査を1992年8月より開始し，現在も継続中である．これにより，1年以上にわたるデータが蓄積できた．これに関しても1年分のデータ解析が終了した．
(5)植物個体群の遺伝構造の解析．フタバガキ林を構成するDryobalanops lanceolataの，個体ごとのDNAサンプルを採取した．マイクロサテライト法によって個体識別が可能なことがわかり，方法論は確立できた．現在，父親鑑定を行なっている．これにより，熱帯林の植物の種内遺伝的多様性維持機構が解明できる．
(6)動植相互作用系の解析．送粉，種子散布など，植物の繁殖過程ではたす動物の役割の調査をおこなった．Dryobalanops lanceolataでは送粉過程に関する詳細な調査がおわり，ハリナシバチ媒花であることを確認した．また，もっとも種多様性の高い低木層の樹木のうち，モクレン目に関する繁殖生態を調査し，それらが甲虫媒であることを確認した．林冠部の寄生植物であるオオバヤドリギの送粉過程の調査もおこない，嘴がきわめて長くなったクモカリドリによって送粉されていることがわかった．
(7)アリと植物の相互作用系に関する調査．熱帯林の林冠部でのアリの採集を行ない，同定作業が完了した．林冠部に分布するアリは地上部に分布するアリとほとんど共通でなく，林冠に特種化したアリの存在が確認できた．また，多くの植物が花外密腺をもってアリを誘引し，植食者の攻撃を減少させていることがわかった．このようにアリは熱帯林のキーストーン種であることがはじめて確認できた．また，アリと強く共生したマカランガ，ロタンの共生関係についても調査した．
(8)裸子植物の送粉過程に関する調査．熱帯林には系統的に古い植物がのこっている．なかでも裸子植物の一員であるグネツムは被子植物の進化を考える上で重要である．このグネツムの送粉過程を世界ではじめて観察し，それが蛾媒花であることを確認した．この報告はNatureに記載された．
(9)植物と昆虫標本の系統的管理，同定システムをクチンの林野庁森林研究所内に設けた．また，標本持ち出しの許可もえた．とくに強調すべき成果として，林冠調査区内の植物同定が1993年12月に終了した点である．これまで熱帯の植物の同定はその多様さゆえ困難であったが，それがこの調査区では克服できた．

研究成果

• [文献書誌] Kato,M.& Inoue,T.: "Origin of insect pollination" Nature. 368. 195-195 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Terauchi,R.: "Development of a microsatellite marker for the population genetic study of a tropical tree species,Dryobalanops lanceolata(Dipterocarpaceae)" Nature. (submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Yumoto,T.& Itino,T.: "Pollination of two epiphytic parasites(Loranthaceae)in the canopy of a tropical rainforest,Sarawak" Am.J.Botany. (submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kato,M.,Inoue,T.,Itino,T.& Hamid,A.A.: "Seasonality and vertical structure of light-trapped insect communities in a tropical lowland dipterocarp forest in Sarawak" Oecologia. (submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Momose,K.,Nagamitsu,R.& Inoue,T.: "Reproductive ecology of an emergent diperocarp tree,Dryobalanops lanceolata,Dipterocarpaceae,in non-general flowering periods in Sarawak" Ecology. (submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 井上民二: "熱帯の小宇宙「サラワクの森」から手にとって「林冠」を観察する" 科学朝日. 54(1). 68-69 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kato,M. & Inoue,T.: "Origin of insect pollination" Nature. 368. 195-195 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Terauchi,R.: "Development of a microsatellite marker for the population genetic study of a tropical tree species, Dryobalanops lanceolata (Dipterocarpaceae)" Nature. submitted.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kato,M., Inoue,T., Itino,T. & Hamid,A.A.: "Seasonality and vertical structure of light-trapped insect communities in a tropical lowland dipterocarp forest in Sarawak" Oecologia. submitted.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yumoto,T. & Itino,T.: "Pollination of two epiphytic parasites (Loranthaceae) in the canopy of a tropical rainforest, Sarawak" Am.J.Botany. submitted.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Momose,K., Nagamitsu,R. & Inoue,T.: "Reproductive ecology of an emergent diptercarp tree, Dryobalanops lanceolata, Dipterocarpaceae, in non-general flowering periods in Sarawak" Ecology. submitted.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] 井上 民二: "サラワクの森" 毎日新聞(夕刊). 4ガツ4カ (1992)
• [文献書誌] 井上 民二(監修、訳): "熱帯雨林の楽園 キャノピーの生き物たち 上,中,下" 科学朝日. 53-1,2,3. 132-137 (1993)
• [文献書誌] 井上 民二: "送粉共生系の力学と送粉者の採餌戦略" 花に引き寄せられる動物-植物と送粉者の共進化 平凡社. 9-32 (1993)
• [文献書誌] INOUE,T.;NAKAMURA,K.;Salmah,S.;Abbas,I.: "Population Dynamics of Animals in unpredictably-Changing tropical environments" J.Bioscience(Special Issue).
• [文献書誌] 井上 民二;加藤 真: "花に引き寄せられる動物-植物と送粉者の共進化" 平凡社, 286 (1993)
• [文献書誌] 井上 民二(責任編集): "週刊朝日百科『動物たちの地球』110号 熱帯雨林II" 朝日新聞社, (1993)