研究課題/領域番号 |
04041074
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
日下部 実 岡山大学, 地球内部研究センター, 教授 (20015770)
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研究分担者 |
FONJI John 鉱山, エネルギー・水資源省(カメルーン), 研究員
野尻 幸宏 国立環境研究所, 地球環境グループ, 主任研究員 (10150161)
北 逸郎 秋田大学, 鉱山学部, 助教授 (10143075)
佐野 有司 広島大学, 理学部, 助教授 (50162524)
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研究期間 (年度) |
1992 – 1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
9,500千円 (直接経費: 9,500千円)
1993年度: 4,500千円 (直接経費: 4,500千円)
1992年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
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キーワード | 火口湖 / カメルーン / ガス災害 / 二酸化炭素 / ニオス湖 / 成層構造 / ガスの蓄積 |
研究概要 |
カメルーン西北部には多くの火口湖が点在する。その1つであるニオス湖で1986年8月に発生したガス災害の原因となった“毒ガス"の正体は、その直後から最近まで行われてきた一連の調査研究(科研費・突発災害調査,1986年10月、海外学術研究,1988年12月、1993年3月および1993年11月)により、湖水に溶存していた二酸化炭素であることが分かった。1984年8月にはニオス湖の南約100Kmにあるマヌーン湖でも、小規模ながらきわめて類似した災害が発生しており、これらの事件はいずれも湖水に溶存していた火山起源の炭酸ガスが突如として大量に湖から溢れ出して周辺の人間や家畜を窒息死させたものであった。これらの事件はそれまでに知られていない新しい型の自然災害として世界の注目を集めた。本研究およびアメリカ地質調査所による継続的調査によれば、ニオス湖の水温・溶存イオン濃度・炭酸ガス濃度はいずれも底層に向かって高くなるとともに、特に底層部における濃度や温度は1986年以降確実に年を追って増加し災害前の状態に復帰しつつあることが判明した。これは湖底から高濃度の炭酸ガスを含む温泉が湧き出しているためである。二酸化炭素が湖水に溶けるとその密度が増加するので、底層水に二酸化炭素が溶ければ溶けるほど湖は安定化する。したがって現在みられるような供給が続く限り底層には二酸化炭素の蓄積が進行する。成層構造がさらに発達すると、わずかな外力による成層構造の部分的破壊によって、その下に溜まっている炭酸ガスが一挙に抜け出して行くことが容易に想像される。つまり、ニオス湖においてはガスの再噴出の可能性が極めて高い。マヌーン湖についても事情は同様と思われる。 ニオス湖は地理的にきわめて遠隔にあり、また湖水が高濃度の二酸化炭素を含むという特殊事情のために、従来、採水および試料の化学分析という一見簡単そうなことが必ずしも容易ではなかった。本研究では湖水の化学組成や温度を正確かつ簡便に計測する手法を確立することに成功した。すなわち、(1)高濃度の二酸化炭素を含む湖水の採水法、(2)CTDによる電気伝道度-水温-pH-深度のその場観測、(3)アルカリ溶液を一定量含む採水器による全二酸化炭素のその場固定法、の3者を確立し、もってニオス湖やマヌーン湖などのガスを多量に含む湖の地球化学的・湖沼学的監視を確実なものにすることができた。上に述べた結論はこのような観測手法の進歩に負うところが多い。 カメルーン型のガス災害は防止可能であるという点で特異である。つまり、(1)地球化学的・湖沼学的調査の監視を継続することにより炭酸ガスの蓄積の様子を把握することが可能であり、したがってガス噴出の危険性をある程度定量的に評価することができる。(2)炭酸ガスを高濃度に含む底層水を人工的に除去することにより、この自然災害の危険を人為的に克服することができる。災害防止の立場から最も効果的なのは底層水を人工的に除去することである。底層水は高濃度の炭酸ガスを含むので、はじめに少量の底層水を人為的に揚水すれば途中で発泡しガスリフトポンプの原理により後は自走的に揚水が継続する。このことはフランスチームにより実験的に確かめられている。これを実用的な規模で実施するにはかなりの工学的検討ならびに予算的措置を講ずる必要があるものの、災害防止の立場からは積極的に考慮されるべきである。ガス抜きが実施される場合には、ガス抜きにともなう湖水の構造変化(化学組成ならびに温度)はもとより、その後に起こりうる湖水の変化を監視する必要がある。 温帯地方の湖では通常、年2回の上下混合があり、例え湖底から二酸化炭素の供給があったとしても底層にガスが蓄積することなく大気に解放される。しかしながら熱帯地方の湖は浅層で水温が高く(低密度)底層で水温が低い(高密度)という温度成層を示すので、火口湖のように湖底からガスの供給の有り得るところではニオス湖と同様な状況が発生し得る。カメルーン型ガス災害を未然に防ぐには熱帯地方の火口湖の調査は不可欠である。本研究はカメルーンの特定の湖を対象にして行われたものの、ここで得られた成果は広くほかの地域にも応用されて行くものと期待される。
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