研究課題/領域番号 |
04041075
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
今永 清二 広島大学, 文学部, 教授 (60033502)
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研究分担者 |
ARUN CawーJen シーナカリンウイロート大学, 社会科学部, 助教授
NOM Ngamnisa シーナカリンウイロート大学, 社会科学部, 助教授
KAWEE Worrak シーナカリンウイロート大学, 社会科学部, 教授
PLUPLUNG Kon シーナカリンウイロート大学, 社会科学部, 助教授
PLUBPLUNG Ko シーナカリンウイロート大学, 社会科学部, 助教授
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研究期間 (年度) |
1992 – 1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 6,500千円)
1993年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1992年度: 3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
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キーワード | ムスリム / タイ・ムスリム / アユタヤ / ペルシア系ムスリム / インド系ムスリム / チヤム系ムスリム / マレー系ムスリム / ス-フイズム / ラタナコーシン王朝 / チャム系ムスリム / モスク / イスラム共同体 / タイ・イスラム |
研究概要 |
本研究はチャオプラヤ川流域、特に港市国家として発展したアユタヤにおけるムスリム共同体の成立と発展の過程を、現地調査により明らかにしようとしたものである。 国際都市アユタヤには、16世紀以来諸外国人が渡来移住し、外国人居住区が形成されていた。アユタヤ王朝は外国商人による委託貿易によって経済発展を遂げていったが、その商業貿易において重要な役割を果たしたのはペルシア系ムスリムであった。ペルシア系ムスリムを代表する人物は、17世紀初めコムから渡来したシェイク・アフマドである。彼はナレスエン王以下ナライ王にいたる諸王に仕え、アユタヤ王朝の外交・貿易において決定的な役割を演じた。彼は香料貿易に従事する商人であったが、アユタヤ王朝出仕後は大蔵大臣・外務大臣・内務大臣を歴任し、その一族を中心にしたムスリム共同体がターカージ-に形成された。アユタヤ最初のモスク、クディ・ルアング・チャオセンもここに建てられた。ターカージ-は、現在、アユタヤ教員養成大学の所在する土地にあたる。 次いでインド系ムスリム及びチャム系ムスリムによって、ムスリム共同体がアユタヤに形成された。インド系ムスリムのそれは、チャフル・ラヤンによってコーン・タキエンに建立されたモスク、マスジド・ティキを中心にしたものである。カンボジアのカンポン・チャム、カンポン・トムから移住してきたチャム系ムスリムは、アユタヤ王朝の義勇軍クロム・アサチャムとして国防に従事したが、彼らはサンパウロンのスラウ・ナイ・クロンの周囲に居住した。 以上のムスリム共同体(ムスリム社会)は、1767年ビルマ軍によるアユタヤ陥落と共に衰退したが、1782年ラタナコーシン王朝の成立により秩序が回復すると、再びムスリムの生活の場として再興された。その後、ラタナコーシン王朝によるタイ南部の征服戦争の結果、マレー系ムスリムが戦争捕虜・奴隷としてアユタヤ周辺に強制的に移住させられてきた。このマレー系ムスリムの共同体がアユタヤのムスリム共同体の主流となり、以後ラタナコーシン王朝期を通じて現在にいたる発展を遂げてきているのである。 本研究においては、現在アユタヤに所在する21のムスリム共同体について、モスクの創建年次を明らかにすることにより、それら5期の段階を経て発展してきたことを明らかにした。具体的には、第1期(アユタヤ時代)、第2期(ラタナコーシン王朝初期・ラ-マI〜ラ-マIII)、第3期(近代化時代、ラ-マIV〜ラ-マV)、第4期(近代、ラ-マVI〜ラ-マVII)、第5期(現代、ラ-マVIII〜現在)に時期区分される。 アユタヤのムスリム共同体発展の過程で、いくつかの特徴的な現象の見られることが明らかとなった。一つは、マレー系ムスリムの流入によりムスリム共同体の人口増加が進み、その他の要因も加わって新しいムスリム共同体の成立すなわちセグレゲーション現象が見られることである。第3期〜第5期のムスリム共同体の成立においては、セグレゲーションによるムスリム共同体の拡大が検出される。 他の一つは、イスラム神祕主義(ス-フィズム)の再生と規定しうる現象が見られることである。第3期・第4期に成立したムスリム共同体のうち二つの共同体では、モスクの創建者を聖者(フ-ソン)として祀り、聖墓崇拝や聖者祭りを行っている。またこれらムスリム共同体は、相互に関連をもち親睦を図っている。本研究ではこれを「新イスラム神祕主義」あるいは「イスラム神祕主義の再生」と評価しており、タイにおける多様なイスラムの存在形態を確認することができた。 アユタヤのムスリム共同体の発展については、その他言及すべき事実が多々あるが、2年間の現地調査を通じてムスリム共同体の形成と発展を5期に分けて時系列的に考察し、その上でイスラム社会を特徴づける現象を具体的に明らにしたことは、今後の研究に資するところが大きいと考えられる。
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