研究概要 |
上海周辺の経済の変化は急激に進んでいる。浦東地区における経済開発の進展や効外農村地区における郷鎮企業の発展に,この変化は特に顕著にあらわれている。この両者に対する調査研究は数多く発表されているが,本研究では,日本の福山市を中心とする広島県東部地域および岡山県西部地域の繊維企業とりわけ縫製企業を比較基準として,上海効外農村地区の縫製企業の特徴づけを行なうことを企図している。この点に本研究の独創性がある。 上海での実際の調査に先だって,上海市の経済情況について詳しい知識をもち,郷鎮企業調査の経験豊かな上海社会科学院部門経済研究所の謝自奮・凌耀初両氏を招聘し,最近に上海経済情況および郷鎮企業情況についての説明を受け,また福山市周辺の縫製企業を調査して中国縫製企業調査にあたって問題となる諸点について検討を加えた。さらに,中国での事情を考慮して悉皆アンケート調査は無理と判断し,調査項目は個別企業のヒアリングによって調査することにした。調査対象地としては,日中合弁企業や中国資本企業のバランス等から上海県北橋郷が選ばれた。 上海県北橋郷での調査は8月25日から9月3日にかけて行なわれた。まず,上海県の対外経済委員会でのヒアリングによって上海県での外資導入の情況と政策が明らかとなった。また,上海県企業局や上海県党委員会,北橋郷人民政府の責任者の話から,北橋郷の経済概況と上海県における工場管理についての政策を知ることができた。 上海県北橋郷における縫製企業(工場)の調査は,北橋郷に存在するすベての調査可能な工場および隣接する閔行区にある1つの日本との合弁企業に対して行なわれた。その調査の結果,次の5タイプの縫製企業の存在が明らかとなった。 第1類型;(Y社)日本と中国側企業の合弁であるが,経営管理は完全に日本企業の方法をとるもの(ノルマ制)。このY社の場合,福山市の縫製企業が進出したものである。 第2類型;(S社,D社)日本と中国側企業の合弁であり,経営管理は一部日本的であるが,一部分はボーナス制をとる。 第3類型;(L社,K社)北橋郷内の郷鎮企業が上海市内の商社や日本以外の外国企業と合弁するもの。経営管理の方法は中国式ボーナス制である。 第4類型;(X社)村の経営。労働者は外地工である。 第5類型;(B社)郷の経営。郷内の農民を労働者としているが,欠損を出して縮小しつつある。 こうした諸類型は,中国農村における縫製企業の経営管理発展の一つの傾向を示している。すなわち,中国農村の潜在的過剰人口を郷鎮企業に労働力として吸収することを主たる目的としていた段階から,上海市や外国への輸出も可能な高度の品質をもつ製品生産に対応する生産管理の段階への発展がそこに見られる。上海近効農村の縫製工場(企業)の場合,この生産管理方式が日本の縫製企業との合弁によって移植されたところに特徴がある。 もうひとつの傾向は,こうした諸類型の並存が,各企業の製品の種類と品質の差および販売先のちがい,各企業の資本,歴史,労働力の質などによって生じていることである。このことと郷村政府が各工場の利潤をすべて吸い上げて拡大再生産のための追加投資を行なわないという事情から,各企業は将来も同じ類型として進までるをえず,第5類型の企業は消滅していく運命にある。 今回の調査では,各企業の生産過程と財務方面について詳して資料を得ることができなかったため,研究分担者の謝自奮・凌耀初両氏に補完調査を依頼した。この補完調査の成果の一部は12月の両氏の招聘時になされた発表で明らかにされたが,なお細部に不明な点があるため,8月に得られた上海県の資料や各工場の資料(とくに写真で撮影した資料)の整理・分析とあわせて,現在,研究作業を継続中である。謝・凌両氏の研究成果は上海社会科学院での夕イプ印刷『上海農村紡織与服装工業発展研究』『上海県北橋郷服装工業経済効益分析』として発表されており,日本側の研究成果は『上海近効農村における縫製工場調査報告』として発表準備中である。
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