研究課題/領域番号 |
04041099
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 目白学園女子短期大学 |
研究代表者 |
スチュアート ヘンリ 目白学園女子短期大学, 生活科学科, 教授 (50187788)
S.HENR (1994) 目白学園女子短期大学, 教授
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研究分担者 |
大村 敬一 早稲田大学, 人間科学部・スポーツ科学科, 助手 (40261250)
手塚 薫 北海道開拓記念館, 学芸員 (40222145)
岸上 伸啓 北海道教育大学, 函館分校・総合科学過程文化科学科, 助教授 (60214772)
菊地 徹夫 (菊池 徹夫) 早稲田大学, 文学部, 教授 (00147943)
佐々木 亨 北海道立北方民族博物館, 学芸員
山浦 清 立教大学, 文学部, 助教授 (50111589)
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研究期間 (年度) |
1992 – 1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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配分額 *注記 |
24,000千円 (直接経費: 24,000千円)
1994年度: 8,500千円 (直接経費: 8,500千円)
1993年度: 7,500千円 (直接経費: 7,500千円)
1992年度: 8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
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キーワード | 民族考古学 / 生業 / 社会関係 / 世界観 / 言語 / 民俗認識論 / 変化と継承 / エスニック・アンデンティティー / 伝統時代 / 女性 / 遺跡 / 世帯調査 / 民族科学 / 伝統時代(定住化以前) / 狩猟・漁撈活動 / 言語差異 / 民俗分類 / 学校関係 |
研究概要 |
カナダの中部極北圏のネツリック・イヌイットは19世紀以来、何度も民族学調査の対象になり、結果として豊富な民族誌のある民族である。ネツリック・イヌイットが分布する地域において考古学調査も実施されており、その歴史、文化、社会の概要はおおむねわかっている。しかし、伝統的な生業活動および現在の社会関係と社会変化に関する詳細は必ずしも十分に明らかにされていない。 本調査は、民族誌に記録されていない古老がまだ記憶している生業活動(カリブー猟、アザラシ猟、魚撈等)に基づいて、季節別の生業活動に関する遺跡・遺構における民族考古学調査を行うと同時に、現在行なわれている生業活動に対して参与観察をし、生業活動の全体図を把握することに重点を置いた。 また、1980年以来、ネツリック・イヌイットが経験している社会・文化的な変化を調査した。それは、ヌナブト協定に伴う自治の出現やイヌイットの「欧米化」に由来する変化である。その様子を明らかにするために社会人類学的な調査を実施した。 具体的な成果は分野別に次の通りである。 (1)民族考古学:共同調査法(スチュアート、手塚、熊崎1994)に従い、古老をインフォーマントとして遺跡で諸活動の詳細を記録して、遺構の具体的な構造と用途を調査した。共同調査法によって、生業に使われる施設(簗、ハンティング・ブラインド、罠等)の具体的な使い方とともに、ハンターの行動や社会関係をもおおかた究明できた。 調査の結果、民族考古学的な調査による遺構、遺物に対する解釈は、18世紀以降に関してはそれなりに有効であことがわかった。しかし、年代の隔たりが大きくなる、また地域が異なる場合、検証できない前提条件が重なり、考古学資料からは直接的に検証できない側面、すなわち社会構造や関係、生業パターン、獲物と人間の関係などについての解釈は推測の域を出ないという結論に達した。 (2)生業活動:民族考古学調査と並行して現在行なわれている生業活動に参加した。とりわけ古典的な民族誌では記述の少ない簗漁と、イヌクシュク人間を象った石塚によるカアリブー猟の様子およびハンター同志の協力関係を把握した。また、季節別に魚やカリブ-の処理と貯蔵の仕方が異なることが明らかにされた。 その結果、人間と動物の関係、女性の社会的地位や役割分担、生業における社会関係(協力、シェアリング等)が明らかになった。現在のそうした要素と「伝統的時代」との比較研究によって、1960年代からはじまった定住生活に伴う文化の継承と変化を追求した。その研究の一環として、伝統的な方位観と地理に関する語彙の収集と分析を行ない、イヌイット独自の環境観があることも明らかになったことと、世代別の言語生活を調査して動植物、色彩、道具、自然環境、宝飯などに関する変遷を究明した。 また、これまであまり注目されてこなかった植物利用に関する研究を行なった。その研究では、植物の利用と名称を民族認識論の立場から分析した。 (3)現在の社会と文化:現在の社会組織と社会関係を把握するために、世帯調査を行ない、親族関係やその他の社会関係、世帯間や個人間の関係などに関するデータを収集した。特に協力や互酬的行動などの社会行為についての調査を行なった。 そのほかに、カナダにおける先住民に関する政治的・社会的・法的な変化(先住権、自治など)に伴う文化・社会的現状を調査して、ネツリック・イヌイットが激変する現在にどのように適応しているかを調べた。 調査の結果、急激な社会変化にもかかわらず、社会関係における拡大家族関係の重要性とその通時的持続性が判明した。つまり、現代のネツリック・イヌイットは、変化していく政治社会的状況の中で、拡大家族や協力関係という社会関係を利用しつつ、社会生活を組織しているといえる。
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