研究分担者 |
SANGKHANUKIT ピー タイ国文部省, 芸術総局・考古部, 部長
MAIMAN S. タイ国文部省, 芸術総局, 次長
今津 節生 奈良県立檀原考古学研究所, 保存科学研究室, 室長 (50250379)
朽津 信明 東京国立文化財研究所, 国際文化財保存修復協力室, 研究官 (50234456)
松本 修自 東京国立文化財研究所, 国際文化財保存修復協力室, 主任研究官 (80099960)
三浦 定俊 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 部長 (50099925)
ROJPOCHANARA タイ国芸術総局, 研究統括官, 研究統括官
SANGKHANUKIT タイ国芸術総局, 考古部, 部長
朽津 信明 東京国立文化財研究所, 国際文化財保存修復協力室, 研究員 (90015248)
佐野 千絵 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 主任研究官 (40215885)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 6,500千円)
1994年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
1993年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
1992年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
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研究概要 |
タイ国東北部には多くの石造遺跡が遺されている。それらはクメール王朝時代の石造建造物であり、長く放置されていたため、劣化が著しい。それらのうち主なものについては、タイ国政府考古総局によって整備が行われており、修復、復原および周辺整備によって、遺跡公園として保護の体制にある。しかしながら、これらの整備は、遺跡の形態を整えることが優先され、劣化した材料の保存修復処理の段階には至っていない。そこで、これらの遺跡を今後末永く保存していくためには、いかなる保存、修復処理が必要とされるのかについて、まずその劣化原因、過程を明らかにする段階からの調査を、タイ国政府芸術総局と共同で行ったものである。クメールの石造遺跡においては、石材とともにレンガが多く用いられている。従って、は石材の他にレンガについても調査を行った。本調査の内容および得られた知見は以下の通りである。 1.調査遺跡 タイ国東北部において調査を行った石造遺跡、および関連遺跡として調査を行った遺跡は下記の通りである。 (1)東北部:バノン・ワン遺跡,ビマイ遺跡,ムアン・タム遺跡,バノン・ルン遺跡,バーン・プラン遺跡,スリ・コラプン遺跡,スラカンバン・ヤイ遺跡,スラカンバン・ノイ遺跡,タモン遺跡群,ムアン・テ遺跡,ラ・モラコット遺跡 (2)関連遺跡:アユタヤ遺跡,スコータイ遺跡,シ-サッチャ・ナライ遺跡,サーンブラ・カーン遺跡,ブランサム・ヨド遺跡,ナコーン・コサ遺跡,ナライ王宮遺跡,ナコーン・ラヴ王宮遺跡 (3)劣化状況 調査を行った遺跡で用いられている主な石材は、砂岩、石灰岩、ラテライトおよびレンガである。これらのうち最も安定しているのはラテライトであり、最も劣化しているのが砂岩である。レンガもかなり劣化している。劣化形態としては、砂岩の場合は層状剥離が中心であり、レンガの場合は塩類風化が中心である。この場合の劣化要因は水であり、地中水もさることながら、雨水の影響が大きいと考えられる。また、高温多湿な環境から生物の繁殖による影響もかなり観察される。 2.環境調査 タイ国を含む東南アジア、南アジアにおいては、年間を通して高温多湿であり、雨期には大量の雨が降る。かかる環境は、屋外遺跡に対しては当然大きな影響を与える。そこで、上記遺跡の中から2箇所の遺跡(バノン・ルン遺跡,ムアン・タム遺跡)に計測機器を設置して環境条件の測定を行った。測定項目は、外気温度、石表面温度、石内部温度、外気湿度、日照強度、雨量である、本測定の結果得られた知見は下記の通りである。 (1)年間を通して最高気温が30度を越える極めて高温の環境にある。 (2)日照が強く、石の表面温度は60℃近くにも達する。一方、夜間には10℃近くにまで低下すること(放射冷却)があり、一日の中で温度差が大きい(特に冬季)。 (3)雨量については、雨期と乾期で大きな差がある。雨期には大量の雨が降るが、一日中降り続くのは極めて稀で、一日の中で雨と晴(強い日照)が繰り返される。このことは、高温と相まって、石材中に浸透した雨水の急速な蒸発が繰り返されることになり、石材の劣化が促進される結果となるものと考察される。 3.保存対策 本調査結果をもとに、基本的な保存対策について、タイ国政府芸術総局と協議を行った。その結果、劣化の主要因は水であること、そして特に、石造構造物内に入り込み溜まった水が、内側から石材に浸透し、それが外側に移動し石材表面から蒸発するのが、もっとも大きな劣化原因であると考察された。従って、保存対策の基本としては、雨水が構造物内部に侵入して溜まらないように、対策を講じることで意見の一致を得た。
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